コロナ前に訪れていた海外都市の事例をお話しします。テーマは都市でのロープウェイです。
都市でのロープウェイというと、横浜市のみなとみらい地区で約1年前に開業した「YOKOHAMA AIR CABIN」が有名だと思います。片道630mを5分間で移動でき、料金は片道1000円というサービスです。観光客を中心に利用者は多く、休日は行列待ちができるほどです。
丘陵地域や山岳地域ではない市街地での整備ということで、都市型ロープウェイといわれていますが、利用者層を見るならば、観光型ロープウェイというのが適切と思います。都市内の日常の移動では使われないからです。利用者が多いからよいという評価もありますが、ボクは循環式ロープウェイの現物が街の中に出現し、誰もが目にするようになった点が意義深いと思っています。
5分間で1000円の料金は高額ですが、丘陵地域の多い横浜市の市民の多くは、このロープウェイをみて、市内のもっと別の場所にあればいいのに、と具体的にイメージできるようになったと想像します。どの交通システムもそうですが、原寸の実物を知り体験することで、次への展開が進むところがあります。
この種の循環式のロープウェイを日常的に利用されるように整備した例で、最も有名なのが、前々回に紹介した南米コロンビア第2の都市メデジンでした。もう15年以上前のことです。斜面の住宅地とふもとの通勤電車の駅を結ぶものでした。
そして、この発想を大々的に取り入れてロープウェイの街を作り上げたのが、同じく南米ボリビアの行政中心都市ラパスです。人口約100万人のこの都市は、標高3500mあまりの高地で、しかもゲートウェイになるエルアルトの空港は標高4100mという高低差を有する盆地の都市です。現地では、ボクも高山病のような状況になりました。
この高低差が災いして、道路も十分でなく地下鉄やモノレールなどの導入も困難な街でした。メデジンの事例を知ったボリビア政府が、国営企業を立ち上げて精力的に導入を進めてきました。
スペイン語で「私のロープウェイ」という意味の「ミ・テレフェリコ」という愛称のラパスのロープウェイは、2014年の開業以来、路線網を拡張して、2019年に訪問した時点では、写真の路線図にもあるように10路線30km以上のネットワークになっており、街のシンボルとしても際立ちます。道路混雑も高低差も気にすることなく市内を移動できます。循環式のロープウェイは運行間隔が短く、ラパスの各路線でも、原則的には20秒間隔で運行しています。
システムとしてのいわゆる定時性はとても高いのですが、横浜と同じく、混雑する時間帯は駅に長い行列ができます。乗っている時間は10分程度でも、乗るまでに時間を要する場合もあるようです。同じ現象は、元祖のメデジンでも発生しています。
メデジンでは、ロープウェイと電車を乗り継いで都心にいく総所要時間が、細い道を渋滞に巻き込まれながら移動するのと大きくは違わない場合もありました。ラパスでそういう詳細な調査をしていないでのわかりませんが、ドアツードアの所要時間だと、ラッシュ時はロープウェイ利用でもかなり時間がかかるのかもしれません。
それでも多くの市民に選ばれる大きな理由は、眺めのよさだと思います。高低差がある分、景色の変化も大きく、高所恐怖症でない限り眺めが楽しめます。日常づかいの交通システムでも眺めは重要です。