【菰田潔 CDゼミナール】追突されない運転術

「もらい事故」という表現がある。もらっても、少しもうれしくない。どんなトラブルだって回避したい。渋滞最後尾で起きやすい危険を回避するために。

 事故に遭わないためには自分からぶつかるのを防ぐだけでなく、ぶつけられるのも避けなければならない。自分に過失がない0対100の事故でも回避したいし、相手がうっかりしていたときも、運転が未熟なドライバーにも、ぶつけられないようにしたい。

 そのひとつの例が高速道路で渋滞中の追突事故だ。とくに危ないのが渋滞の最後尾なのはご存じだろう。100km/hで走っているときに前に止まっているクルマがいたら、スピード差が100km/hだから簡単には止まれないし、スピードを落とし切れずにぶつかったときの衝撃も大きくなる。

菰田さん似顔絵

こもだきよし/モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会会長。BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。JAF交通安全・環境委員会委員。1950年、神奈川県出身

 渋滞の最後尾で追突されない方法は「渋滞の最後尾にならないこと」という簡単な原理だ。

 その方法は、前方に渋滞を発見したらすぐにブレーキを踏むことから始まる。強いブレーキは必要ないが、確実にスピードを落としていく。自車のブレーキランプを点灯させることで後続車にも知らせる効果がある。

 先行車がいる場合、徐々にスピードを落としていくと前に詰めがちになるが、ここで車間距離を詰めてはいけない。ブレーキを踏む前の車間距離をキープし、自車の前を空けるイメージだ。

渋滞を示す道路管理車

渋滞の最後尾にならないように注意して「もらい事故」を避ける

 ある程度の交通量がある場合は、ここで自車の後ろについてくるクルマが出てくるだろう。後続車が3台くらい連なってきたら渋滞の最後尾につく。そうすると自車は最後尾にはならないという理屈だ。自車の後ろに3台くらい並んでいれば、もしその後ろから大型車が突っ込んできても、自車に大きなダメージを受けるリスクは減らせるはずだ。

 渋滞が起こるくらい交通量も多ければこうして後続車を連ねて最後尾を避けられる。だが、交通量が少なくても事故などで渋滞し、なかなか後続車が来ないこともある。そんなときは最後尾まで進んで待つのではなく、その手前で最後尾との車間距離を大きく開けて後続車を待つ。このときはDレンジに入れたまま、ブレーキを踏んでルームミラーを確認し、後続車が来たら徐々に前に進んでいけばいい。後続車がスピードを落とさず近づくようなら、前に逃げるスペースがあるからそれを使う。

中央を空けて渋滞に備えるドイツのアウトバーン

▲ドライバーに「渋滞時は(中央に)救助レーンを空けよ」と車線の左右端に寄るように図解付きで呼びかけている(アウトバーン)

 ドイツでは渋滞の最後尾車はハザードランプの点灯が義務付けられている。また、ドイツ車は約50km/h以上で走行中にABSが作動するような急ブレーキをかけると停止寸前から自動的にハザードランプが点くシステムが組み込まれている。突然の渋滞で急ブレーキでなんとか追突を避けられた、という状況ならドライバーはハザードランプを点ける余裕がない。だから、クルマが勝手にやってくれるというわけだ。急ブレーキで点灯したハザードランプを解除するには、ハザードランプのスイッチを押すか、アクセルを踏み込むと解除できる。

 日本車でも一部のクルマには同じシステムが搭載されているのでご自分のクルマの取り扱い説明書をチェックしておくとよいだろう。

 もうひとつアウトバーンでの渋滞時のルールもヒントになる。これは「日本でもルール化するといいな」と思っている方法だ。それは渋滞で停止する際に、走行車線と追越車線の横の車間距離を開けて止めるというアイデア。走行車線のクルマは車線内の路肩側、追越車線のクルマは車線内のセンターライン側に止めると、左右のクルマの間隔が空くので緊急車両が通過しやすくなるのだ。

 日本の高速道路の車線幅は3.5m(アウトバーンはもう少し広い)ある。そこで車幅1.8mのクルマが端に寄せて止めれば1.7m空く、つまり2車線分では3.4m空くからパトカー、救急車やレッカー車も楽に通れる。

 実際ドイツのアウトバーンで初めてこのシーンに遭遇したときは驚いた。大型の消防車が100km/hくらいで追越車線と走行車線を跨いで走って行き、止まっているクルマがその走行風で揺れたのだから。

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