小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜17時50分~18時TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●マツダらしさ全開の初EV
「僕らはどちらかというと、EVが特別とは考えていないのです。マイルドハイブリッド、EV、ディーゼル、目指すところは1つなので」(車両開発本部 梅津大輔さん)
マツダ初、量産バッテリーEV、新型MX-30EVモデルに乗ってきた。
すでに昨年10月、2リッターマイルドハイブリッド版は出ていたが、EV版は初めてだし、そもそもマツダが出す量産EVとして初のモデルだ。
注目は、やはりその電動化そのものだろう。
ご存知のとおり、マツダは2012年に低圧縮ディーゼルのスカイアクティブD、2019年に画期的な火花点火制御圧縮着火のスカイアクティブXを出すなど、内燃機関にこだわりまくりのメーカー。
それだけにピュアEVモデルの発売は、少々意外だったが、やはりマツダらしさ全開だ。
それは奇しくもホンダeと同じ35.5kWhという中容量サイズのリチウムイオンバッテリーと、WLTCモードで256kmの航続距離、451万円スタートの価格。
ぶっちゃけ走れて実測200km前後であり、最新EVの標準としては短めといわざるを得ない。値段も正直、安くない。
しかし、マツダは独自理論で理想を貫いた。それは「大容量リチウムイオンバッテリーは製造時に大量のCO2を出し、それを走行中のCO2排出の少なさで補うのは無理」という話と「現実の乗用車の走行距離は1日数10km程度」という事実だ。
同時に、マツダは「本当にスタイリッシュで楽しいEVならば、多少不便でも買ってもらえるはず」と思っていたのかもしれない。
実際に2020年9月、EVにポジティブな欧州で先行発売したところ、すでに販売1万台と好調。
そこで年明け、当初はリース予定だった日本市場で、年間500台とかなり少ないがリースではなく販売が決まったのだ。
●極めて自然に加速し、乗り心地はしなやか
気になる実車だが、注目はMX-30独特のスタイリッシュさ、マテリアル選びがどうなっているか。
この点はマイルドハイブリッド版とまったく変わらない。
ボディサイズは全長×全幅×全高=4395×1795×1565mmと、床下に収納されたバッテリーにより15mm高くなっているだけで2655mmのホイールベースは同一。車重は200kg弱重い1.65トン。
なにより乗用SUVとしては珍しい両側観音開きドア、マツダがいうところのフリースタイルドアは、あい変わらず開放感抜群。
とくにウィンドウを開けて走った時に、風が前後を回る感じはちょっとしたオープンカフェのよう。
ただ、リアシートに座り、ドアを閉められてしまうと自分では開けらなくなり、独特の窮屈さもある。
一方、グレードにもよるが、シフト回りのリアルなコルク素材、ドア内張りのフェルト素材、スーツ生地のようなシート表皮は実にオシャレ。自動車というよりちょっとしたセレクトショップの家具のようだ。
肝心のモータースペックは最大出力145PS、最大トルク270Nmとほどほど。よりボディ小さいホンダeと同等レベル。
乗ってみると出足は少々拍子抜けする。
発進時に最大トルクを発生する電気モーターがゆえ、発進加速でビックリさせるEVが多いなか、あえての自然体。
レスポンス自体は速いのだが、無理やり加速を尖らせてない。アクセルを踏んだら踏んだ分だけ加速する大人のEVだ。おそらく、首は一切痛くならないはず。
さらに乗り心地が異様に柔らかくてしなやかだ。マイルドハイブリッドより車重が200kg近く重くなっている分、高級感が増しているとは想定していたが、それ以上。ゆったり加速と相まって上質感がすごい。
同時にビックリしたのがハンドリングの一体感だ。ここまで足をしなやかにすると、ステアリングの急操作についていけなくなったりするが、それがない。
マツダ独自の加速度を微小領域で操るハイテク「e-GVC Plus」が効いており、不思議なほど操舵したとおりに曲がる。
「他社さんがモーター駆動の特徴をピックアップの良さに使っているとしたら、マツダは滑らかさに使っています。電動加速を人間の感覚にマッチさせれば非常に乗りやすい、自然体のクルマが出来ると確信していたので」(前出・梅津さん)
まさにいっていたとおり。EVになっても、マツダはマツダ独自の道を歩む。それがMX-30EVモデルなのである。