【中村文彦Forum】沖縄市にて。ストックをバスで活かせるか

 

沖縄のバスは系統番号(写真は62番)を大きく表示。バスの系統番号は日常会話でもよく使われる

 ボクは、沖縄県内の都市交通にかかる案件について、およそ20年ほど断続的にお手伝いさせていただいてきています。ゆいレールと呼ばれるモノレールの延伸計画や、旭橋のバスターミナル再開発、国道58号という大きな幹線国道のバス輸送などで、少しだけですが、かかわってきました。

 コロナ禍でしばらくご無沙汰していましたが、過日、久しぶりに沖縄を訪問することができました。沖縄県内は、ゆいレール以外は鉄軌道がないこともあって、バス路線が充実していて、県民の足になっています。ただし、その利用者数はどんどん減少しています。

 路線バスの年間輸送人員でいうと、1985年には一日平均約20万人だったものが2019年には一日平均約6.5万人になっています。沖縄県の人口が約150万人ですので、少なさがわかると思います。因みに、比較対象として適切ではないですが、人口約960万人の東京都区部の鉄道利用者は、一日当たりで約2700万人です。違いは歴然としています。

 この勢いでバス利用者数が減少すると、減少に比例して、運行便数が削減されたり、路線が廃止されたり、一方で運賃が値上げされるのかもしれません。移動の選択肢としてバスがなくなってしまうかもしれません。この危機感に対して、政府の内閣府沖縄総合事務局も沖縄県も、県下の各市町村も、いろいろな取り組みをしています。

 今回、いろいろな方たちと現地でお話をして、またいくつかの現場も歩いてみて、ボクは、いろいろな可能性も感じました。このコラムでは、そのうちの2つを紹介します。

 ひとつは、写真からもわかるのですが、バスの系統番号です。車両前面で番号が大きく主張されています。沖縄県内で、少しでもバスを利用する人たちは、きわめて自然に、バスの系統番号を日常会話で使います。県外の人間からは想像しにくいのですが、ロンドンをはじめとする欧州の大都市のように、バスの系統番号が、しっかりと根付いています。

胡屋のパークアベニューは歩道の幅が広く緑も多い。歩きやすい空間を確保している様子がわかる

 いろいろな講演会の機会に、ボクが最近申し上げていることのひとつに、バスを含む公共交通の目指すべき3要素というのがあります。

具体的には、

①駅や停留所まで歩けること、
②県民(市民)が存在を認知し信頼を寄せていること、
③駅や停留所も車内も車窓も楽しいこと、です。

 このうち②は、なかなか手強いと思っています。親世代がバスを使わなくなると、次の世代は、存在すら知らなくなりそうです。どんなに使いやすいバス用アプリを開発しても、そもそもダウンロードしてくれなければ、バスを知ってもらえません。ただでさえ、路線網がわかりにくいので、地図上の路線図も見てもらえません。日本のあちらこちらでいわれる話です。

 ところが、沖縄では、日常会話に系統番号が登場します。お店や施設の案内でも使われます。これは貴重な無形財産です。まだまだチャンスがあります。

 もうひとつは、拠点形成です。今回、沖縄本島中部の沖縄市の胡屋地区を訪問できました。歩道を大きく広げ緑も充実させたパークアベニューや、ゴヤ市場を中心としたアーケード街がしっかりと残っています。賑わっているというほどではないですが、歩行者にやさしい空間がしっかりと残っているのを活かさない手はありません。

胡屋のアーケード街。歩行者にやさしい空間が残っている。バス路線が集中している交差点の近くにあり、賑わいを取り戻すポテンシャルは高いように見える

 幸いにバス路線も多く集約している交差点の近くなので、街を蘇らせることが可能だと思いました。先ほどの①②③でいうと①にも③にもつながる潜在力です。もっと深く精査していくべきことかもしれませんが、まだまだバスを活かした未来を諦めるわけにはいかない、と思った次第です。

なかむらふみひこ/1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

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