【菰田潔 CDゼミナール】交通事故死者ゼロのために〜その1

人・道・車。交通事故死者ゼロを目指すトータルアプローチ

「死亡交通事故ゼロ」を目標にかかげるSUBARU/ホームページから転載

 交通事故死者ゼロを目標に安全対策を強化したクルマ作りをするカーメーカーが増えている。

 ボルボは2007年、「Vision2020」と銘打って、2020年までに新しいボルボ車に搭乗中の事故による死亡者、重傷者をゼロにする宣言を出した。日産車が関わる交通事故の死者数を実質ゼロにする「ゼロ・フェイタリティ」は日産自動車が目指すところだ。これは2005年に設定したものだが目標達成の年はまだ聞いていない。SUBARUは2030年にスバルに乗車中の死亡事故およびスバルとの衝突による歩行者、自転車等の死亡事故をゼロにすると、2018年に新中期経営ビジョン、STEPで宣言した。

ボルボは事故現場に専門スタッフを派遣して事故データを分析 安全性向上に役立てている

 今後、他のカーメーカーからも交通死亡事故をゼロにする宣言は出てくると思われる。しかし筆者が考える交通死亡事故ゼロはクルマだけでは到底達成できるものではない。

こもだきよし/モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会会長。BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。BOSCH認定CDRアナリスト。1950年、神奈川県出身

 

 交通安全には「人・道・車」がキーになるとよくいわれる。交通死亡事故ゼロを目指すためにはまさに「ドライバーと道路環境とクルマ」のどれもが安全になる必要がある。

レジェンドの自動運転技術は周囲の状況をリアルタイムに正確に検知・分析することで事故を回避する

 交通死亡事故ゼロを達成するためには莫大な費用がかかることは明白だ。それは効率がいいか悪いかの次元ではなく、いくら費用がかかっても実行するという気概を持たなくてはできないテーマだ。

 人(ドライバー)に関しては、教育が必要だ。まずは安全に走ろうとする気持ちを持つように教育すること。教育にはお金がかかる。これから運転免許を取る人だけでなく、日本の免許保有者8000万人に対する教育が必要だ。

「私はいつも安全運転しています!」という人でも勘違いの安全運転という可能性もある。たとえば急ブレーキ。昔の教習所では「急ブレーキはいけません」と教えていた。しかしいまは、「事故を防ぐためには思い切って強いブレーキを踏むことが大事」なのだ。

 これはABSが装着されたためにできる操作。最新技術によって進化したクルマを運転するなら、それに合った運転方法でなくてはせっかくの技術が活かせない。

ホンダ・レジェンドはハンズオフ技術(自動運転レベル3)を搭載したレジェンドを台数限定で発売した(2021年)

 クルマは止まる能力を持っているにもかかわらず、ドライバーがそれを使いきれなくて衝突してしまう可能性もあるのだ。高い運転技術を持ちつつ、細心の注意を払った安全運転をすることが大事なのだ。

 日本では大型トラックのドライバーを尊敬するという話は聞かない。しかしドイツでは運転免許を取ったときに、大型車のドライバーのような運転をしなさいと教えられる。それほど法規を守り、事故を防ぐ運転を心掛けているからだ。

 道は交差点が重要になる。交通事故の多くは交差点で起きているからだ。クルマ対クルマの事故で乗員は守られていても、クルマ対歩行者の場合には死亡事故や重傷事故になりがちだ。歩行者とクルマの通行帯を分けないと、いつまでも安全にはならない。

SUBARUアイサイトは「ぶつからないクルマ」の考え方を広く浸透させた。現在も着々と技術を磨き込んでいる

 最近は信号機の点灯の仕方が変わって、歩行者が渡るときには4方向のクルマを止める交差点が増えてきたのは好ましいことだ。それでも歩行者の列にクルマが突っ込んで大事故になるケースが後を断たない。

 交差点での右折と直進の事故も悲惨なケースが多い。右直事故からクルマが歩道に飛び込んで歩行者が犠牲になる事故もある。交差点付近の安全性を高めるために、路車間通信や車車間通信によって対向車が迫ってくるのを警告するシステムもできあがっている。

 車はクルマ同士の事故、単独事故、対歩行者の事故もすべて含んで自車の乗員も相手も傷つけないようにしなくてはならない。これは相当大変な仕事である。レーダー、レーザー、音波、カメラによって情報を収集し、それをドライバーに伝え、ドライバーができない場合にはクルマ自らが事故回避の運転をするまでできるだろうか。ここまでがアクティブセーフティだ。

 衝突した場合でも衝撃吸収構造、シートベルト、エアバッグ、ヘッドレストで乗員を守り、ボンネットのポップアップやエアバッグで歩行者を守るのがパッシブセーフティである。

交通事故死者ゼロを実現するためには何が必要なのかをこれから数回に分けてレポートする。

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