小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜17時50分~18時TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●事実上日本で一番売れる登録車、ルーミー
2020年12月にフルモデルチェンジした両側スライドドアコンパクトの4thスズキ・ソリオ。
全高1.7m台の軽スーパーハイト、ホンダN-BOXやダイハツ・タントを登録車にしたようなモデルだが、このクラスで売れているのは2016年に登場した1stトヨタ・ルーミーだ。
実はルーミーはソリオを狙い討ちした競合車で、ズバリ後追いだが販売はルーミーのひとり勝ち。
発売から5年目の2021年に入っても1~5月はオール月販1万台超え。とくに5月は前年比300%超えという異様な売れ行きだ。
登録車の販売トップは一応ヤリスだが、これはハッチバックのヤリスとSUVのヤリスクロスの合算。分けて考えると真のトップはルーミーになる。
理由は、2020年がコロナ禍であったことや、元々トヨタ・ルーミーはタンクの兄弟車だったのがトヨタの全店併売でルーミーに一本化されたこと。20年9月のビッグマイナーチェンジでACCが装着された、などもあるが、なによりもトヨタの販売力とクルマ作りだろう。見事においしいところをついている。
今回はこの2モデルを比べてみたい。
●いいクルマが売れるとは限らない
試乗者は、どちらもハデ顔を持つカスタム系。
ルーミーは最上級のカスタムG-Tで、ソリオはバンディッド ハイブリッドMV。
どちらも価格はほぼ200万円。
見た目はどちらも押し出しが強いが、ソリオのほうがクルマとしてはオーソドックス。わかりやすいメッキグリルが主張している。
一方、ソリオは太い5連メッキバーグリル。これは好みだが、若いユーザーはルーミーを選ぶのかもしれない。
ボディサイズはどちらも近いが、特徴的な点がある。
全長×全幅×全高はソリオが3790×1645×1745mm、ルーミーが3700×1670×1735mmとソリオのほうが90mmも長い。
これはソリオが4thモデルになって、商品性を増すために全長を90mm伸ばしたのが効いている。この効果でラゲッジは約100mm延長、室内を比べると後席は同等だがそれ以外はソリオのほうが明らかに広い。
インテリアのクオリティはどちらもほどほど。
▲トヨタ・ルーミーのインパネ
インパネにソフトパッドは使われてなく、どちらもシボ付きのハード樹脂で覆われている。
▲スズキ・ソリオのインパネ
ただ、細かく見るとソリオはカーボン風パネルが使われていたり、シート表皮の質が高かったり、座り心地がソフト。個人的にはソリオ有利かと感じた。
▲ルーミーのフロントシート
▲ソリオのフロントシート
走り味は圧倒的にソリオだ。ルーミーの乗り心地はドタバタ感がある。それに比べ、ソリオはしなやかでなおかつ剛性感が高い。
一方、パワートレインのスペックはルーミーの方が上。1リッター直3ターボでピークパワー&トルクは98ps&140Nm。対するソリオ・バンディッドは1.2リッター直4で91ps&118Nm。
ただしルーミーは3気筒、ソリオは4気筒で、滑らかさはソリオが上回る。さらにソリオは3.1psのマイルドハイブリッドが付いている。なおかつ、ボディ軽量化技術でソリオのほうが軽い。
結果、発進加速の活発さではルーミーでは上質感、静かさではソリオだった。燃費もWLTCでルーミーが最良16.8km/L、ソリオが19.6km/Lとソリオ有利。
▲ルーミーのリアシート
▲ソリオのリアシート
だが、販売現場ではルーミーが優勢だ。
それはトヨタの販売力とデザイン重視の戦略ゆえかもしれない。
そのほか後席を倒したときの収納性能も面白い。ルーミーは汚れ傷防止のボードがあり、ひっくり返すと多少の汚れ物でも気にせず置けてしまう。
つくづくクルマの販売は難しい。さまざまな要素が関わってくるものなのである。
▲ルーミーのラゲッジ
▲ソリオのラゲッジ