小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜17時50分~18時TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●ここに来て使えるディーゼルついに登場!
なんてことをやってくれるんだルノー・ジャポン!
日本では2009年に発売され、12年間圧倒的人気を誇った愛され実用コンパクトの2ndルノー・カングー。
つねにルノー日本販売を3割以上を占めており、一時は5割を越えていたほどの主力車種である。
しかし2020年には3rdカングーも現地公開され、いよいよモデル末期。よって先日400台限定の最後の日本仕様たる「ラストカングー」が登場したのだが、コイツが恐ろしいほど魅力的で「おいしそう」なのだ。
その名はカングー リミテッド ディーゼルMT! おわかりのとおり「カングー初のクリーンディーゼル」で「6MT」搭載。しかも「前後無塗装樹脂バンパー」に「テッチンホイール」を備えた、最も使えて最もシンプルな仕様。これぞイメージどおりの質実剛健なカングーである。
担当者に聞くと「ディーゼルエンジン自体は、古くから本国にあったもので、日本対応がやっと間に合った」ということだが、もっと早く出していたら大人気間違いナシだったはず。
尿素SCRとDPFを持つクリーンな1.5L直4コモンレール式ディーゼルターボは、ピークパワー&トルクが116ps&260Nmという実力。既存の1.2Lガソリンを上回り、燃費もWLTCモードで19.0km/Lでガソリン車以上。実用車カングーにピッタリなパワー特性を持つ上、エコでランニングコストも安く済むのだからたまらない。
本体価格は282万円とガソリンより10数万円高だがグリーン税制適用だから全く問題ナシ。カングーファンなら眼をつむって買っても失敗しないレベルの1台でもある。
●被害軽減ブレーキにACCにLEDにデジタルモニターとないものだらけ!
いよいよ試乗したラストカングーだが、あらためて魅力を分析するには最適のモデルだった。
まず良いのはスタイルとサイズ。見てわかる通りの丸型フォルムの癒し系でまさに「走るネコバス」。
サイズもちょうどいい。イマドキ大人5名と荷物が余裕で乗れるワゴンボディなのに全長4280mmで4.3mを切る。
全幅は現行モデルで1.8m超の1830mmと3ナンバーに突入したが、それほど大きくない。なぜなら新型3rdカングーは欧州計測値で全幅1.9mを超える。計測ポイントは左右ミラー間なので実際には1.86mぐらいで収まるとはいえ、やはり新型は確実に大きくなる。
ちなみにボディカラーは全6色。フランスの郵便局車をイメージした「ジョン ラ・ポスト」のほか、今回借りたソリッドカラーの「グリ アーバン」なども選べ、素材感が溢れていてカッコいい。
それから素朴でカッコいい無塗装樹脂ブラックバンパー&テッチンブラックホイールだ。
まさしくパリの街並みを走るカングーのイメージで、今回の限定車が初めてではないが、やはりよく似合っている。
ついでにディーゼルMTはグリル下にLEDデイライト、リアバンパーに超音波ソナーも備わっていて便利だ。
肝心のディーゼルユニットだが、アイドリングはウルサいが思ったより気にならない。前日乗ったVWパサートの方がある意味、ウルサかった。
6MTのシフト操作はもちろん、クラッチ操作も軽い上、ディーゼルが下からトルクがあるので扱い易い。
6速では時速100kmを出してもエンジン回転は2000rpm以下と控え目であり、走行中にうるささは感じない。
さらに乗り心地である。この手は日本でいえばハイエースのような存在で、積載物も重いので足回りは硬く締め上げられがち。
しかしカングーは違う。実用車でありながら足回りはフランス車らしくしなやかなのだ。
あらためて感じたが、カングーは日本人にとって、まさしく「イメージどおりのフランスの実用車」なのだと思う。
キュートかつ飾らない外観を持ち、しかし走ると優しくて車内も広くて便利。このバランスは日本のハイエースにはないし、アメリカのピックアップとも違う。
源流を辿ると、ルノーキャトルやシトロエン2CVのようなユニークデザインと、人への優しさを兼ね備えた名作フランス車に行き当たるのだ。
当然ディーゼルが似合うし、MT車も間違いなく人気モデルになる。
一方、現代の新車として冷静に見るとツラい部分があるのも事実。
なにしろどのグレードを選んでも被害軽減ブレーキはもちろん、アダプティブクルーズコントロール、LEDヘッドライトやデジタルモニターも付けられないのだ。あるのはディーラー後付けのナビぐらい。
だがその素っ気なさであり、すべてを削ぎ落とした道具感こそがカングー最大の魅力なのだ。
今後、登場する3rdカングーは、先進安全はもちろんデジタル性能も最新世代を盛り込んでくる。
それはそれで魅力的かもしれない。だが、そうなるとそれが「カングーである必要性があるのか」疑問になってくるし、「他のクルマでもいいのではないか」という気もしてくる。
まさにラストチャンス!
このシンプル過ぎて、道具感あふれるカングーを買えるのも今回で最後になるかもしれない。