【菰田潔 CDゼミナール】交通事故死者ゼロのために〜その3

 

オーストラリアで見たガードレールは端の部分が衝撃吸収構造になっていた。ガードレールがつぶれることで、クルマが受けるダメージを和らげる狙いがある

「人・道・車」が交通事故死者ゼロを目指すときのキーになる。前回までにクルマと人について話したので、今回は道について。

 道路環境により事故が起きたり、防げたりする。信号機のない交差点の場合、見通しがよければ事故にならないと考えがちだが、そうでもないようだ。

こもだきよし/モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会会長。BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。BOSCH認定CDRアナリスト。1950年、神奈川県出身

 コリジョンコース現象がその一例。直角に交わる十字路で交差する道路を走ってくるクルマが互いにAピラーの影に隠れながら近づき、あるいはクルマから見て相手の位置が変わらないと止まっていると勘違いして、互いに衝突直前まで確認できずに事故になる。

 北海道のような開けた場所の直線道路同士の交差点で起こりやすい。どちらかが一時停止すれば事故にならないのだが、見渡す限り誰もいないとなると、そのまま走ってしまうのか。

見通しがいい道路を走行するときは左右方向から走行してくるクルマとのコリジョンコース現象に注意

 そんな交差点にはラウンドアバウト(環状交差点)が最適だ。円形の道路に2本の道なら4方向に出入口の道路が取り付けてある。ここでの優先権は環状交差点を走るクルマが持っている。つまり外から入ろうとするとき、中の環道を走るクルマが来るときは譲らなければならない。来ないときには一時停止する必要がなく、環道に入れる。

 コリジョンコース現象の事故を防ぐだけでなく、信号機も不要でタイミングを合わせれば止まる必要もないからエコでもある。

 市街地や住宅街の道路には歩道を設けてもらいたい。ヨーロッパの街中を見るとほとんどの道に歩道がついている。日本の交通事故は歩行者の死亡者数が多いから、是非とも歩道を増やさなくてはならないと思う。

 直線道路での歩車分離という施策はもちろん基本だが、交差点でも車対車、車対二輪車の事故も防ぐ効果があるからだ。建物の壁が道路ギリギリだとしたら安全確認のためにちょっとクルマの鼻先を出しただけでぶつかりそうになる。

 歩道があれば道路の糊代のように使って安全確認がしやすくなる。自転車が歩道を飛ばしてきたら新たな危険が生じるが、自転車は車道側を走ってもらえば解決できる。

 最近、拙宅近くの信号機のプログラムが変わった。片側3車線の幹線道路と片側1車線の商店街の道の交差点の信号機に、歩行者用に全方向青色ができたのだ。商店街の道から幹線道路にクルマが出て右左折するのも横断歩道に人が歩いていないからスムーズに行けるし、歩行者は青色のときにはどの方角にも行けるから便利になった。

 信号機による歩車分離は、歩行者用の青信号の時間があるため、渋滞を引き起こさないようにクルマ用の青信号の時間の調整などが難しいかもしれないが、やる価値はあると思っている。

道路の施設にクルマが衝突したときに、施設側がクルマを攻撃するような建て方をなくすことも必要だ。乗用車だけでなくバスやトラックがぶつかっても乗員を守る余裕がほしい。

 欧米の高速道路を走っていると、立体交差の橋脚が道路に近い位置に立っている場合は、ガードレールの高さが2倍くらいになって、大型車両がぶつかっても橋脚までは行きにくいように作ってある。バスはフレームは丈夫に作ってあるかもしれないが、ボディパネル自体はそれほど強くはないし、衝撃吸収構造にもなっていない。だから乗用車以上に道路側の衝突安全対策が必要になる。

ドイツのガードレール。端の部分が道路に埋設されている様子がわかる

 通常の道路脇にあるガードレールもその端にも支柱が立っているから、そこに衝突するとダメージは大きい。ドイツではガードレールの端は地中に埋まっているから、端の支柱にぶつかることはない。オーストラリアで見たガードレールの端は衝撃吸収構造になっていた。

 ITSの発達で車車間通信、路車間通信ができるようになると、対向車が近づいてくることを知らせてくれて、右直事故などが防げるようになるかもしれない。しかし日本の約8000万台のクルマに普及するのは随分先の話になるだろう。

 それまでは道路環境の整備によって交通事故の被害者をなくす努力を、道路管理者はしなければならない。

 そして「人・道・車」の三位一体でなくては、交通死亡事故をゼロにすることはできない。

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