イギリスのチャドバレーは、王室ご用達の老舗玩具メーカーだ。テディベアや地球儀など、さまざまな商品を製造し、戦前はブリキの自動車も作っていたらしい。そのチャドバレーが、終戦直後から1950年代にかけて「WEE-KIN」というブランドのミニカー・シリーズを発売した。
ミニカーといっても、ゼンマイが内蔵されていて、巻き鍵を回して手を放すと、自走する仕掛けになっている。ドイツのシュコーマイクロレーサーや日本の大盛屋ミクロペット・シリーズと同じ仕掛けだ。
1950年代までは、コレクションアイテムとしてのスケールモデルという概念が十分確立しておらず、子供たちのおもちゃとして、ゼンマイ仕掛けが不可欠だったのだろう。ただ、ダイキャストのボディ自体は、とてもしっかりしていて、クルマの雰囲気を、よくかもし出している。
写真は、1949年式のロールス・ロイス・シルバーレイスのポリスカー仕様だ。チャドバレーのシルバーレイスは、ノーマルのリムジン仕様に加えて、屋根に大きなラッパ型の拡声器を載せた交通管制車仕様と、このポリスカー仕様の3種類がある。
チャドバレーが作った乗用車のミニカーには、サンビーム・タルボなど、いくつかの種類があるのだが、このロールス・ロイス・シルバーレイスが「いちばん台数が少ない」といわれている。とくに、このポリスカー仕様は、完全な状態で残っていることが非常に珍しい。
というのも、ルーフに装着されている「POLICE」のプレートが脆弱で、少しでも遊ぶと、取れてなくなってしまうからだ。プレートが付いていて、しかも巻き鍵まで残されているものを、ボクは、このモデルのほかに見たことがない。もしかしたら、日本に残されているのは、この1台だけかもしれない。
ただ、それだけ貴重なミニカーにもかかわらず、高い値段が付くとは限らないのが、コレクションの面白いところだ。このモデルがオークションに売り出されたとしても、おそらく少しレアなトミカくらい、つまり数千円くらいの値段しかつかないだろう。それは、日本だけでなく、世界市場でも、そうなっているのだ。
このモデルが発売された1949年の時代を「懐かしい」と思う人は、すでに80代になっていて、年金生活者だろう。だから高いお金を出して買おうとする人がいないからだ。
そういうボクも、1万円を超す値段で買おうと思わないひとりなのだ。