【中村文彦Forum】小さな場づくりから、バスを活かした元気な地域へ

 

ときがわ町のせせらぎバスセンター。各方面からの路線が同時に到着し発車する工夫でスムーズに乗り継ぎできる。写真提供/ときがわ町

 2022年5月、ボクが編著者を務めた新刊が出版されました。本田宗一郎氏らが創設した国際交通安全学会という学際的かつ国際的な学会で、3年間にわたり研究させていただいた成果をまとめた内容です。

 もともとの発想は、都市のど真ん中にはオフィス街でもショッピングセンターでもなくて、劇場とかスタジアムとか、広い意味での文化的、創造的な機能があるべきで、舞台やスポーツ観戦、あるいは美術鑑賞を楽しむことこそが幸せであり、交通サービスも、そういう楽しみとその余韻を支えるためにこそあるべきだ、というような話から始まったものでした。集大成にあたり、ご一緒いただいた先生方からの提案で、本のタイトルは『余韻都市』になりました。

 この一連の研究成果は、以前、このコラムでも書いた「場(place)」の重要性にもつながります。大都市であれば、比較的わかりやすいのですが、小さな都市ではどうなのか。出版記念のシンポジウムを聞いてくださっていた、ある大学の先生から質問されました。

 ボクの回答は明白です。「小さな町でも、いろいろな場があるし、それを活かした交通体系の構築は可能である」と思っています。

 少し古い事例ですが、約10年前に非常に有名になったものをひとつ紹介します(現在は多少状況が変わっているかもしれません)。埼玉県比企郡ときがわ町の真ん中にできた体育館などがある複合公共施設と、それを核にしたバス路線ネットワーク、それを受け入れる、せせらぎバスセンターです。鉄道駅が3カ所、町外れに位置していることもあり、そもそもバス路線ネットワークが組み難かった町です。

 この町で、せせらぎバスセンターを中心とした放射状の路線を作り、すべての路線のバスが、センターに同じ時刻にやって来るようにしました。これは、鉄道駅を含め町のどこからどこにいくのも、センターで1回乗り換えれば済む、というアイデアです。センターでゆっくりと時間を過ごしてバスを1便、あるいは2便遅らせるのもウェルカムです。複合公共施設の存在がとても大きいです。

 当時、このような仕組みをハブアンドスポークと呼んでいました。自転車の車輪のハブとスポークにたとえた呼称です。もちろんハブが重要です。ちなみに、各路線の時刻をそろえる発想は、米国で「timed-transfer」と呼ばれていたもので、米国の都市交通分野での専門用語です。

多世代交流広場ナギテラス。バス乗り場と待合室のほかに遊歩道や展示スペースなどを併設して「人々が集まる場」を提供する。写真提供/奈義町

 このtimed-transferまではいかないけれど、決して大きくはない町の中のハブの整備にあわせてバスの乗降場所をきちんと確保する例は、少しずつ増えているように思えます。各地で「バス路線を設定しても、利用者が少なく、大赤字だ」という話を聞きます。赤字を減らすために減便してきた歴史が各地にありますが、減便しても利用者は増えず、町のためにはなりません。

 町のためにすべきことは利用者を増やす工夫であり、それには、「場とつなげること、さらには場を増やすこと」が必要だと思います。  岡山県勝田郡奈義町(なぎちょう)に2019年4月にできた多世代交流広場ナギテラスは、高低差のある地形を活かしてさまざまな機能を盛り込み、複合的な「場」を創り出した一例で、建築的にも優れている事例です。バス乗降施設と、待合空間がしっかりとセットでデザインされています。

 このような事例が、少しずつ増えていき、こういう場での活動を楽しみ、余韻に浸る人たちを支えるバスが増えていくとよいな、と思う次第です。

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