【中村文彦のForum】ラオスの発展に鉄道が果たす役割

ビエンチャンで新駅が開業。貨客の輸送充実で発展に拍車

写真1/ビエンチャン〜タイ鉄道のカムサワート駅。従来の終着駅だったターナレーン駅から約7㎞都心部に近い位置に新設された。ラオス中国鉄道のビエンチャン駅(写真右下)からは北に約10㎞離れている。鉄道の延伸はタイ政府の開発援助で行われたもの

 2023年4月号に続いて、ラオスの首都のビエンチャンを訪問したときの話をします。

 今回は2つの鉄道駅についての話です。

 ラオスの旅客鉄道といえば、隣国タイのノンカイからメコン川にかかる友好橋をわたって、ビエンチャン市内東部のターナレーン駅までを結ぶものだけでした。列車の本数は一日2往復しかなく、駅もビエンチャン市内から外れていてバス路線もタクシーアクセスもない寂しい駅でした。この鉄道が延伸され、ビエンチャンの都心近くに新しくカムサワート駅が開業するようです(写真1/2)。

写真2/『日刊タイニュース』(2022年10月6日)は、「カムサワート駅は将来的にラオス中国鉄道のビエンチャン駅と接続する予定で、中国・昆明まで列車を運行する計画だ」と伝えている

 まだ鉄道は運行を開始していませんが、ターナレーン駅から7kmほど都心に近くなり、後述のラオス中国鉄道のビエンチャン駅(写真3)とは10kmほど離れているようです。駅施設が立派なだけでなく、駅と都心をつなぐ道路も往復4車線の立派なものがすでに供用されています。

 GBさらに、駅からほど近いところでは、すでにオフィスやマンションなどの建設も始まっています。当面は一日4往復程度から始まるようですが、バンコクまで結ぶ国際夜行特急列車の運行も計画されており、タイと結ぶ新しい玄関口になることが期待できます。ちなみにタイ国鉄との直行の鉄道線路ですので、線路の幅は、タイ国鉄と同じ1000mmです。

 もうひとつの駅は、ラオス中国鉄道のビエンチャン(万象)駅です。中国雲南省昆明と結ぶ路線になっていて、ラオス国内で400km以上の線路が、中国の支援などで建設されました。こちらは中国新幹線とつながる予定で、線路の幅は1435mmになります。ビエンチャン駅はきわめて立派な駅舎で、広場も駐車場も充実しています。

ラオス中国鉄道(LCR)のビエンチャン駅。駅名に漢字を使い、中国からの旅行者にも利用しやすいように配慮していることがうかがえる

 ビエンチャン都心からのバス路線も旅客列車の発着にあわせて運行されており、賑わっている駅でした。ビエンチャンから約230kmの距離にあるラオス北部観光地のルアンパバーンまで約2時間ほどで行けるようになりました。利用者はとても多いようで、今後が期待されています。

 ラオス中国鉄道は、新幹線のように見えるのですが、いくつかの点でユニークです。まず単線であり、途中駅では行き違いの待ち合わせがあります。次に、最高速度が160km/hと、同じような車両に見える、中国本土や台湾や日本の新幹線よりも遅いようです。そして、貨物列車が多数運行されていること(最高速度は120km/h)もとてもユニークです。

 日本では、フルスペックの新幹線か、山形や秋田のようなミニ新幹線の2種類があるのですが、ラオス中国鉄道は、どちらとも異なるユニークな位置づけのように思えます。新幹線というと、どうしても東海道新幹線や東北新幹線のようなイメージを持ちがちですが、コストとの見合いもあるのでしょうが、単線での全線開業と貨物列車運行は、ユニークといえます。

 いくつかの報道によると、ターナレーン駅からカムサワート駅への線路とは別に、ターナレーン駅からラオス中国鉄道のビエンチャン南駅という新設の貨物駅まで線路幅1000mmで別途線路が建設され、タイからの貨物列車が運行されているようです。ビエンチャン南駅で積み替えて、そこからラオス中国鉄道の貨物列車で中国国内につながっています。列車は直通しないものの鉄道貨物輸送ネットワークが、中国からタイまでつながっているようです。

 安全で信頼性の高い鉄道輸送のネットワークがつながることで、旅客流動や物資流動がより活発になり、それは地域の発展につながります。いくつも課題があると思いますが、ラオスは大きく変化する、そんな兆しを感じました。

なかむらふみひこ/1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

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