歩行者保護に対して優しい運転はドライバーの基本的なルールだといえる。横断歩道を渡ろうとする歩行者がいれば、道路を横断するまで停止するのが基本。幼稚園の送迎バスからは子供たちが降車する可能性を考えて、安全が確認できるまで停車して待つ。そうした心構えがきれいな運転につながる。
きれいな運転キタナイ運転は、クルマ対クルマだけの話ではない。クルマ対歩行者というケースも存在する。
JAF(日本自動車連盟)が2018年から調査を始めている「信号機のない横断歩道で歩行者がいる時の車の一時停止」の実態調査が面白い。全国94カ所で調べた結果、一時停止率の全国平均は39.8%(2022年調査)だ。つまり約6割のクルマが止まらないことになる。止まるクルマは年々増えているというが、全国平均が100%に近づくのはいつになることやら。
道路交通法では「横断しようとしている歩行者」がいる場合は、クルマは一時停止して歩行者を優先しなくてはならないが、それが守られていないという結果だ。
何%のクルマが止まったか都道府県別に表になって発表されているが、上位の県では82.9%だったが、下位では20.9%とほぼ8割のクルマが止まらない県もあるというから驚く。この横断歩道で渡ろうとしている人がいるのに止まらないクルマこそ、「キタナイ運転」と呼べる。
実は信号機のない交差点だけでなく、信号機のある交差点で信号機が青色になり左折するときにも、歩行者の隙間を縫って行こうとするクルマをよく見かける。
道路上のあらゆる面でクルマ対歩行者の関係において、もっと歩行者を守らなくてはいけないのが日本の現状だ。
ドイツでは横断歩道を渡ろうとしている人がいたら必ずといっていいほどクルマが止まる。もちろん止まることが交通ルールになっているのだが、警察の取り締まりが厳しいというのも、みんながルールを守っている理由のひとつだろう。日本人がドイツで運転するときは、そのことを頭に置いておかなくてはならない。
ドイツでは歩行者が絶対優先かというとそうでもない。
歩行者横断禁止の道路で、高齢の女性が歩いて道路を渡っているときにクルマに跳ねられ、病院に搬送される事故が起きた。このケース、日本だったら運転者にも相当の責任が生じるところだろう。だが、この事故の場合は病院に支払う費用は女性自身が負担し、ぶつかったクルマが凹んでいる場合は、その修理代金も女性が支払うことになった。横断禁止の道なのだから、横断しなければこの事故は起こらなかったという裁判所の判断だ。このへんは実に合理的だと思う。
アメリカではスクールバスに対する保護が徹底している。乗っているのは次世代を担う子供達だから、その子供達を守るためだ。スクールバスが停止している場合は、その周辺のクルマはすべて停止しなくてはならないというルールがある。これを守らなければ高い罰金が課せられ、同じ罪で重ねて検挙されると罰金も上がり、免許証を剥奪される可能性もある。
ドイツでは市街地を走るトラム(路面電車)の場合、道路上の駅で止まっているときは脇をすり抜けて走ることはできない。あくまでもトラムの乗降客が優先なのだ。トラムから降りたらすぐに道路中央から歩道に移動できる。
ドライバー側から歩行者側にリクエストしたい部分はある。横断歩道の横に立っているのでクルマを止めると、その場でスマホを操作しているだけで、本人には道路を渡る意思がない場合がある。
渡りたいのかそうでないのかをうまくドライバーとコミュニケーションが取れるようになるといいのだが、それがうまくいってないのが現状だといえる。