●小沢もマジで欲しくなる日産の第2世代半自動運転技術
不肖小沢、生まれて初めて「コレ付いているだけで乗りたい! 付いているクルマが欲しい!!」と思える画期的自動車ハイテクに遭遇しちゃいましたよ。それは先日発表された日産の運転支援技術「プロパイロット2.0」。
▲プロパイロット2.0の発表を行う日産の自動運転/高度運転支援先行技術開発部長 飯島徹也氏
なにをオオゲサな! と言うなかれ。確かに小沢も「スイッチひとつで自動運転」とうたった割にたいしたことなかった「初代プロパイロット」には拍子抜けしました。しかもかつては「自動運転技術」と言い切っていたプロパイロットですが、今回「運転支援技術」と言い換えるなど、表現的にはちと後退。もっともこれは自動車工業会のガイドラインに合わせただけです。
ところが中身を聞いてビックリ。実力的には自動運転一歩手前! これぞ本気のプロパイロット機能で、初代はプロパイロットと名乗らない方が良かったのかも? と言いたくなるくらいの出来なんです。
▲世界初とは3D高精度地図データを搭載したインテリジェント高速道路ルート走行のことを指す
プロパイロット2.0で可能になったのは、ざっくり「ナビ連動ルート走行機能」と「同一車線内ハンズオフ機能」の2つ。前者はナビと連動し、目的地に至る高速道路での分岐や追い越し、車線変更を自動で支援してくれる機能で、これはこれで凄いけど、なによりビックラこいたのは後者。ハンズオフ=「両手バナシ運転」が可能になったことですからね。それも特に時間制限なく。
▲3個のカメラを駆使するトライカムを搭載 さらにレーダーやソナーで全方位をモニタリング データを3D高精度マップと照合する
しかもそれを支えるハードウェアがハンパない。有名なモービルアイ製の3眼カメラ「トライカム」や最新チップEyeQ4を含む7個のカメラ、5個のレーダー、12個の超音波ソナーで360度センシングを行い、さらに国産カーメーカー10社や三菱電機、ゼンリンなどが出資する国内地図ベンチャーDNP(ダイナミックマップ基盤株式会社)による全国1万4000キロの高速道路情報入りの3D高精度地図データで位置を補完する、リアルとデータのダブルトレース方式。シングルカメラと専用チップだけだった初代プロパイロットと比べると隔世の感アリなんですわ。その分、お値段はかなり上がっちゃいそうですけど。
▲高速道路の同一車線内で制限速度までハンズオフ可能なのは現在のところ日産プロパイロット2.0のみ BMWは60km/h以下の渋滞時に限定
思い返せば自動運転といいつつ、ヒトがハンドルから手を離して運転できたのは2015年末期に北米テスラのモデルSに初搭載された「オートパイロット」の初期型でした。
翌年アップデートされ、その後オートパイロットは「ハンドルに手を添えていないとダメ」になり、長くても手放し10秒程度で機能がキャンセルされました。その後も半自動運転は、メルセデスやBMW、ボルボもすべてステアリングに手を添えるのがマスト。ところが今回は高速道路の同一車線内を走っている時は「両手を離してOK」なのです。それも時間無制限で。マジですか? って話で。
たとえば東京~大阪間500kmをクルマで走る事になったとしましょう。時間にして約6~7時間。よほどの運転好きならともかく結構な苦行です。
ところがプロパイロット2.0付きの場合、いったん東名高速に入ると車線変更時や料金所、ジャンクション以外では、手をハンドルから、足をアクセルやブレーキから離したまま運転できるんです、理屈上は。それどころかジャンクションや車線変更時も基本ハンドルに手を添えているだけでOK。びっくりするほど楽ちんなのは間違いなし。
▲距離や時間に関わらず高速道路の同一車線内ならばハンズオフ走行が可能となる
もちろん制限スピードの問題は残っているし、突発的ハプニングも自己対応。そもそもハンズオフ走行中も、事故などの全責任はドライバーにあるわけで、つねに前方を確認し、周囲に注意を払っていなければなりません。とはいえやっぱりとんでもないテクノロジーの進歩。
ってなわけで日産自動運転技術の父、Mr.プロパイロットこと飯島徹也エンジニア(日産自動車AD/ADAS先行技術開発部・部長)を発表会でカコミ直撃! 質疑応答と合わせ、現時点で分かるすごさを解き明かしてみました。
▲注目すべき技術発表とあって猛烈な囲み取材を受ける飯島氏(左から2人目)
小沢:一応確認ですが、ハンドオフは現在の道交法では禁止されてないんでしたっけ?
飯島:道路交通法では「ハンドルから手を放すこと」は禁止されていないです。規定されているのは、前方に注意し、確実に道路、周辺の交通、自分の車両の状態に応じて確実にブレーキアクセルハンドルを操作しなければいけないこと(第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない※手放ししてはいけないとは書かれてない)。すでにアクセルとブレーキは、必要あればいつでもオーバーライドするという条件で過去20年間自動化されてきました。ここから先はハンドルについても、ドライバーが周辺の車両、道路、自分のクルマの状態にちゃんと注意し、必要な時にいつでもオーバーライドできるという状況なら、ハンドルから離してもいいという流れになっていると思うんです。
▲プロパイロット2.0の場合はドライバーが前方を注視しているかをクルマがモニタリング ハンズオフ状態で長く目を閉じたりすると警告を発する
小沢:何秒以内にハンドルに戻れる位置に手を置く、みたいな決まりはないんですね?
飯島:高速道路には料金所があるし、車線変更時にはハンドルに手を添えなければいけない。実際の交通では、頻繁にドライバーとクルマのやり取りが発生して「この先は料金所なのでハンドルに手を添えて操作してください」と出てくる。そこに応えないと緊急停止機能で止まっちゃう。永遠に手を離してしまうわけではありません。
小沢:ということは、いままでのハンドル握りは自主規制だったんでしょうか?
飯島:握りなさいっていうのは、従来のように車載カメラだけで前を見ている状況では急に車線がかすれていたら(車線キープが)できなくなっちゃうからです。しかし、今回3D高精度地図データを使うことで車線の途切れがなくなる。だから信頼性のレベルが上がり、安心して運転できるのです。
▲プロパイロット2.0のメーター内表示イメージ どの車線を走行中か明確にクルマ側が把握している
小沢:これまでハンズオフ運転ができなかったのは純粋に技術的な問題だと。
飯島:技術的な問題です。レベル2やレベル3のレベル議論とも絡みますが、いまの技術は前方を見ることに関してはかなりよくできています。信頼性も上がってきている。一方、横方向を見る技術は前方ほどじゃないんですね。だから横に動く時はドライバーも一緒に確認操作をしなければダメ。手を添えていなければダメということなのです。
誤解しがちですが、ハンズオフができる、できないは、プロパイロット2.0が日本の道交法をクリアしたとか、してないの話ではありません。日産が「手を添えてなくても、ちゃんと高速の同一車線をトレースできる技術を作れたか」なのです。
それこそが今回実現した360度センシング技術と3D高精度地図データの融合なのです。飯島エンジニアは言います。
▲クルマがカメラやレーダーと3D高精度マップを常時連続的に照合して自車位置を把握する マップと画像の照合は地形や建物なども使う
「おおよその位置をGPSで出したあとは、実際の画像情報と3D高精度地図データで車線、ランドマークの位置を照合させながら精度を高めていきます。結果、横方向は5㎝以内、前後方向は1m以内で(精度を)確保できていると思います」。
▲3D高精度マップとカメラやレーダーの組み合わせで横方向5㎝という細部まで認識できるようになった点がプロパイロット2.0の驚異的なところ
高速道路でナビを使ってジャンクションの自動通過まで導くには、当然、自車がいま中央車線を走っているか左側車線を走っているかまで特定できないといけません。それが今回はできるようになった、ということなのです。
そして残るは制限スピード問題。というのも残念なことにハンズオフ機能は制限スピード内でしか使えません。「そうしないと国交省の認可が降りなかった(技術系開発者)」とのことですが、実勢スピードが速い高速内で使った場合、プロパイロット2.0搭載車は妙に安全だが妙に遅い「走るパイロン」になる可能性があるのです。
「あとは実情に合わない交通ルールをどうするかだよね」と指摘するのは旧知の自動車ジャーナリスト。プロパイロット2.0の進化は、頭の硬い日本の交通政策の矛盾を期せずして露呈させてしまうのかもしれません。
▲プロパイロット2.0は追い越しなどの際にも運転支援を行って安全性を高める