【Front Screen/安東弘樹】新型プリウスの評判、「俺のとは違うなー……」

プリウス メイン確かにいいクルマ、でも期待が高すぎたのでしょうか!?

  「俺のとは違うなー……」という表現、これは2009年~2010年にかけて放送された刑事ドラマの主人公の台詞です。ご存じの方もいらっしゃるでしょう。
 この言葉が私から出たのは、新型プリウスに関してさまざまな記事を読んだときでした。基本的に絶賛する内容が多かったのですが、私は試乗後、困惑していたからです。

 前提として、エクステリアには非常に好感を抱きました。素直にカッコイイと思いました。しかしインテリアは少し残念。メーターやステアリングは、どこかで見た印象があり、インパネの素材は全面プラスチック剥き出し。これが300万円未満のクルマでしたら、問題はないのでしょうが、乗り出し400万円を超えるグレードでも同じです。シエンタや他の同社ミニバンの方が素材や造形に工夫が見られたと記憶しています。

インパネ

 そして何より走りです。メーカーの説明によると、「人間が感じる領域でのリニアさや加速感を重視してセッティングした」ということで、多くの記事がそれに準じたレポートでした。しかし私の感想は、相変わらずのラバーバンドフィーリングで、エンジン音が耳に入ってきた後に速度が上がる、という旧型とほとんど同様の印象。加速感にも感動は得られませんでした。多くの記事に並ぶ「圧倒的な加速」「リニアに加速」「安定の低燃費」に共感できなかったのです。

 正直、私の感性が間違っているのかと思い、インプレッションはどのメディアにも載せませんでした。サーキットで乗ったPHEVモデルには期待できましたが、HEVモデルはデザイン以外、あまり旧型との差は感じられなかったのです。公道試乗では、空いている一般道と高速道路を30kmほど走って、燃費は19km/リッター。これでは他のトヨタのHEVモデルと変わらないどころか、少し悪いくらいです。メーカーは「ハイブリッドだから選ぶクルマから、所有欲を満たすプリウスにした」と説明しますが、走りを犠牲にせずに圧倒的な燃費を実現し、しかもカッコイイ、新世代プリウスを期待していた私は、少し肩透かしを食らいました。

スタイル

 期待が大きすぎたのかもしれません。何かモヤモヤした気持ちのまま、試乗会場を後にしたのは、もう3カ月も前の話でした。
 普段、私が運転しているのは大トルクのディーゼルエンジン車や、思いのままに加減速できる2人乗りのMTのスポーツカーです。レスポンスが極めていいクルマだというのもプリウスの感想に影響を与えたと思いますが、他のジャーナリストの皆さんも、それなりのクルマに普段から乗っているはずです。私だけ何かセンサーがおかしいのではないかと、自問自答する日々を過ごしてきました。しかし先月、ある高名な雑誌に高名なジャーナリストが同車に関する公道試乗の記事を寄稿されていたのを読んで、思わずひざを打ちました。

 表現は違えども方向性が私と同じでした。プリウスに対しての敬意は根底にありながらも、ラバーバンドフィールや、メーターの表示に対する提言。このクルマの存在意義など、まさに私が首を捻っていたところが同じで、何だか自分が肯定された気持ちになり、気づいたら、その方にメールを打っていました。有り難いことにすぐに返信をいただき、「もしかしたら私も間違っているかもしれませんよ(笑)」というフェアな一文も含めて、誠実な文章を返してくださいました。

リアスタイル

 誤解を招かないように申し上げますが私はプリウスを「よくないクルマ」と判断したわけではありません。ただ、実用燃費が旧型比で改善しているとは思えず、動力性能が飛躍的に向上していたとも感じられなかったうえに、ドライビングに官能性も付与されているとは思えなかったので、悩んでしまったのです。

 スタイリッシュなエクステリアには大きな価値があり、プリウスが日本の道を走ることによって、景観の向上に貢献すると思います。その存在が好意的であることは間違いありません。とはいえドッグクラッチを使いダイレクト感を実現しつつ、実用燃費で20km/リッター以上をマークするルノーのE-TECHハイブリッドなどと比較すると個人的には魅力を感じなかったのです。プリウスのエンジニアの皆さんの説明を受け、頭が下がるのと同時に、ユーザーは、どこまで、この努力の結実を受け取るのか、疑問に思ったのも確かです。

 ユーザーはエンジニアと直接、話す機会はありませんので実際の使い勝手や燃費を見て判断することになります。いま、バックオーダーを抱えているプリウスはグレードによっては2年待ち、という話ですので、ユーザーが使っての真価と評価は、少し後になるでしょう。私の感想が適切かどうかは、そのときを待ちたいと思います。

イメージ

【プロフィール】あんどうひろき/フリーアナウンサー。1967年、神奈川県生まれ、元TBSアナウンサー、現在は独立し、TBSラジオ「UP GARAGE presents GARAGE HERO’s〜愛車のこだわり」。TOKYO MX「バラいろダンディ」、MBS「朝日奈央のキラめきスポーツ〜キラスポ〜」、テレビ東京「ミライの歩き方」、bay fm78「MOTIVE!!」など多くのテレビ、ラジオ番組で活躍。趣味・特技はモータースポーツ、クルマ全般、弓道、スキー。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員

SNSでフォローする