【中村文彦のForum】自分の判断で選ぶ。考える力の重要性について

自分の判断で選ぶ。考える力の重要性について

ドイツ北西部の都市ノルトホルン(ニーダーザクセン州)で実施されているゾーン20を示す標識。日本のゾーン30プラスは、一定区域内の道路が抜け道として利用されるのを回避するために、走行速度を30㎞/hに制限に加えてハンプを設置するなどの対策を実施

 ゴールデンウィークに家の片づけをしていて、大学1年生のときの教養科目の講義の教科書やノートが出てきました。いま読み直してもなかなか高度な内容なのですが、そのころは背伸びしながら、講義を拝聴していたものです。

 いまにして思えば、ですが、いろいろな学びの中で、自分のものの見方や考え方の引き出しが大きくなったり、深くなったり、引き出しの数が増えたり、そういうかたちで、鍛えていただいた時代なのかもしれません。ややもすると自分を見失いそうになる現代において、いろいろな教養の修得を経て、ものを考えて判断する力が、とても重要になってきているように思います。

 ボクが専門とする都市交通の世界でも、時々同じようなことを感じるときがあります。判断する力が重要になるケースを2つ紹介します。

 ひとつは、この連載記事でも何度となく取り上げているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)です。MaaSの最近の話題は次回に譲るとして、わかりやすい例を示します。

 MaaSのアプリがあるとして、さまざまな情報が一元的に提供されたとします。これからおでかけする人は、その情報をもとに、たとえば、出発する時刻、利用する交通手段、その経路などを選ぶことになります。この選ぶ場面で、その人の考えや判断が反映されます。アプリがある選択肢を推奨したとしても、選択の判断の責任はその人に帰属します。できるだけ安く行きたい、できるだけ早く着きたい、できるだけ景色を楽しみたい、いろいろな判断基準を持っていて、それらを勘案して選びます。

 選ぶことは、ときに楽しみでもあり、大切な経験の蓄積の機会でもあります。これを奪ってはいけないと思います。  考えなくなることは、一見楽なようにも思えますが、ボクたちが賢さを放棄しつつあるようにも思えます。MaaSは、個人の選択をサポートします。

 もうひとつの例は、経路ナビゲーションです。休暇中のドライブで、従来のカーナビや、あるいはスマートフォンの経路案内を利用した人が多いと思います。案内してくれる経路、場合によって複数の経路を案内してくれるときにどう判断するか。それとともに、ボクは、そもそも適切な経路を案内してくれているのか、という点にも疑問を持ちます。

 交通規制、混雑状況等をもとに予想所要時間も教えてくれる時代になりましたが、時々、こんな道を通っていいのかなという経路も出てきます。住宅地の中で、住民の方々の静穏で安全な生活を脅かすのではないか、という経路が出てくるときがあります。

 ナビゲーションシステムがそういう道路を選択肢として提示しないでくれれば、と思いますし、もし提示されても、ドライバーが自分の判断で選ばないでいてくれれば、とも思います。そんな狭い道でも、交通規制されているわけはないのだから、通るのは合法だろう、文句はあるまい、といわれそうです。

 そうなのですが、それでも、高速道路などと違って、自動車以外の道路利用者が混在し、本来の主役が自動車とは限らないような道路を抜け道に使ってほしくないと思います。そういう道路は、全国どこでも、地区の住民の方々を優先するような交通規制を導入してくれれば、とも期待します。

 ドイツのゾーン20(時速20マイルの面的規制)にならったわが国のゾーン30プラスが各地に続々と展開されることを願うところです。それと同時に、ドライバーが自分の意思で、楽しく安全に運転できる経路を選ぶことも忘れてはいけないと思っています。

 

なかむらふみひこ/1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

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