【中村文彦のForum】圧倒的な存在感で惹きつける「小さな都市のBRT」

圧倒的な存在感で惹きつける「小さな都市のBRT」

フランス・バイヨンヌ市(ボルドーから南に約150km)のラ・トラム(トラムバス)はT1とT2という2路線を営業している。終点でパンタグラフを出して充電するBEV

 公益財団法人日本交通計画協会の中に、BRT研究部会という組織があります。ボクはその研究部会の会長を仰せつかっています。今回、この研究部会で、フランスの現地視察ツアーが企画、実施されました。コロナ禍の前から企画があったものの、コロナ禍での渡航制限などもあり、実施が延期されていました。

 BRTは、日本では「バス高速輸送システム」と訳されています。多くの書籍では、連節バス車両を用いていること、交差点などでバスの走行を優先させるような信号制御をしていること、そもそもバスだけが走行できる道路や車線を有していることなどをBRTの要素として位置づけています。

 しかしながら、海外のさまざまな事例を見ると、連節バス車両でないシステムもあれば、優先信号制御がない場合もあります。専用の走行路がないものもあります。ポイントは、それらの有無ではなく、速いか、時間が読めるか、たくさんの人を運べるか、結果として、従来のどちらかというと否定的なバスのイメージを払拭できるか、といったあたりだと思っています。詳しくは拙著をご覧ください。

バスが抱える「マイナスイメージを払拭」する

 欧州では、途上国等で見られる「地下鉄に遜色ない機能を有する大規模なBRT」とは異なる、「やや小規模なBRT」があります。差別化するために、BHLS(Bus with the High Level of Services、フランス語の場合はBHNS)と呼ぶことが多くなってきました。言い換えると、地下鉄の代替のような大規模なバスシステムが元祖BRTで、路面電車の代替のようなやや小規模な、それでも、幹線輸送を担うバスシステムがBHLS(BHNS)ということになります。

 今回のフランスの現地調査では、このBHNSの事例を調査してきました。今回は、そのうちの1つ、フランス西部バスク地方バイヨンヌ市のラ・トラム(トラムバス)を紹介します。バスク都市圏で人口約30万人、バイヨンヌ市自体は人口約5万人とかなり小規模な都市です。

 バイヨンヌ市は2017年に、地域独自の交通税という財源を活用して、地域のバス路線体系の抜本的な見直しに着手しました。幹線路線、支線路線、オンデマンド運行地区を組み合わせ、運賃体系を統一化し、バスをスムーズに乗り継いでどこへでもいける形態を目指したのです。現地の球技でのボールの反射のようなスムーズな連絡という意味で、そのボールの反射音の擬音ティクシャクをニックネームとしたようです。その幹となる2つの路線が、BHNS「ラ・トラム(トラムバス)」として2019年に開業しました。

トラムバスの室内。窓が大きく明るい雰囲気。乗降口の近くに設置された認証装置がIC運賃カードの認証やクレジットカードでの決済に対応する。乗車運賃は1.2€から

 ラ・トラムの特徴は、まず車両デザインの圧倒的な存在感です。床が低く、運転席横以外の3カ所のすべてのドアで乗降するかたちです。乗車後に各自でカードを機械にかざす方法で運賃確認をします。いわゆるVISAタッチも使えます。次に、その動力源です。電動バスですが、終点でパンタグラフによる急速充電を行います。

 最後に、走行空間です。それぞれ全長15km前後なのですが、要所要所がバス専用になっていて、交差点では、バスが通行するときだけ他の車両向けの信号が短時間赤になるシステムがごく普通に設置されています。バス駅付近の舗装色や道路空間構成も独特で、結果として圧倒的な存在感を放っています。1時間に4本程度のバスですが、利用者も多く、人気のあるバスになっています。

「所詮バス」、などとはいわせない存在感は、日本でもできないことはないと思い始めています。この話はまた別の機会に。

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