JRD製ベルリエ・タンクローリー。貴重なモデル
JRDは5年間の短い活動で多数の名作を残した
■プロフィール もりながたくろう●1957年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。個人のコレクションを展示する"博物館(B宝館)"を、埼玉県・新所沢で一般公開中(毎月第1土曜日)
▲JRD製ベルリエ・タンクローリー ベルリエ社は1899年にフランスのリヨンに設立された自動車メーカー 1978年までにベルリエ社の事業はシトロエンやルノー・トラックのグループに吸収された
JRDは、1958年から1963年のたった5年間だけダイカストミニカーを製造した後、あっという間に消えてしまったフランスのミニカーメーカーだ。
日本には、おそらく正規輸入されなかったと思うが、JRDは、実車を正確に再現しながら、独特の味わいをかもしだす素晴らしいミニカーをいくつも生み出している。フランス車を得意分野にしていて、シトロエンのHバンや2CVのモデルは、1980年代に復刻生産されたので、「見た覚えがある」という読者も多いかもしれない。
JRDのモデルは、コーギーやディンキーの初期モデルと比べても、遜色のない仕上がりなのだが、JRDのコレクター自体が少ないので、希少なモデルであるにもかかわらず、ネットオークションでは、あまり高値がつかない。
写真は、JRDモデルの中でも、さらに希少な特装車、ベルリエ社(フランス)のタンクローリーだ。タンクに書かれているTOTALという石油のブランドは、日本ではあまりなじみがない。だが、TOTALはもう60年以上前に日本に進出した石油メジャーの一角を占める石油化学会社だ。
日本でなじみがないのは、ガソリンスタンドを展開していないからだが、日本でもジェット燃料の供給や潤滑油の分野では大きな存在感を示している。だから、ラリーカーやレーシングカーに"TOTAL"のステッカーが貼られているのを見たことがある読者は多いだろう。ちなみにボクはずっと"トータル"と読むと思っていたのだが、正式な読み方は、"トタル"だ。
さて、このミニカーが作られた1950年代から60年代というのは、ブリキのおもちゃからダイカストミニカーへの転換期にあたる。その歴史は、このモデルにも明確に表れていて、タンクの上に据え付けられたはしごは、ダイカストではなく、ブリキでできている。
また、当時は金属を薄作りする技術が、まだなかったのだろう。持ち上げると、ずっしりと重い。それがかえって重厚感を与えて、モデルの味を高めている。
振り返ると、ヨーロッパのミニカー生産は1970年代までが黄金時代だった。その間、モデルはどんどん精緻になり、ドアやボンネットが開くようになり、さまざまなギミックが付くようになった。それはそれで、楽しくてよいのだが、このモデルが持つ素朴さも、素晴らしいなと思う。