【菰田潔 CDゼミナール】きれいな運転、キタナイ運転〜サンキューハザードは必要か

合流させてもらったとき、間を空けてくれた後方の車両にハザードを点滅させて感謝の気持ちを示す……一般的に行われているサンキューハザードだが、場合によっては意外なトラブルを引き起こしかねない。どんな危険が潜んでいるのか。具体的な事例を紹介しつつ、この問題について考えてみよう。

 

 自分ではきれいな運転をしているつもりが、実はキタナイ運転だったということもある。今回は知らないうちにキタナイ運転をしないように、常識にとらわれず自分の運転を見直してもらうことがテーマだ。

 そのひとつが“サンキューハザード”と呼ばれる行為。車線変更でちょっと強引に前に入り込んだ、なんていうときにハザードランプを2〜3回点滅させてお礼の代わりにする、よく見かける合図だ。

 筆者はこの“サンキューハザード”の使用に反対する。別の意味に取れる合図はしないほうが安全だからだ。  ハザードランプは、止まってはいけない場所に止めた場合に点けるもの。だから基本的には走行中に使うべきものではない。

 目の前に入ってきたタクシーがハザードランプを点滅させたので“サンキューハザード”だと思ったら、そのタクシーが急に止まり追突したという事故例がある。走行しながらハザードランプを点滅させ、後方車に“客を乗せるために止まる”合図をしているのである(この場合は左ウインカーで左に寄って止まるのが正しい)。このケースは“止まります”の合図と“サンキューハザード”と別の意味で捉えたことで事故になった。

 路線バスが停留所から発進するときに右ウインカーを点ける。後続車はバスを優先して道を譲らなければならない。そのあとにバスは“サンキューハザード”を点けるシーンを見かける。これも不要な合図だ。バスが“サンキューハザード”を点けたときに斜め後ろのクルマから見たら、車線変更してくるのかと勘違いする。トラックやミニバンの前にいるバスは斜め後ろからでは半分しか見えない。つまりハザードランプではなくウインカーに見えるのだ。

 この“サンキューハザード”が生まれたのは、夜の高速道路で大型トラック同士が追い越しする際のカー・ツー・カー・コミュニケーションからだ。最高速度が同じような大型トラック同士で抜いた後に元の車線に戻る際、ジリジリと前に出たタイミングで抜かれた側のトラックがヘッドライトを消し、長い荷台の分まで前に入る余地ができたことを知らせる。すると抜いたトラックが元の車線に戻ったあとにハザードランプを点けた。荷物を高く積み上げているため運転席で手を上げても見えない。お礼をしたい気持ちがハザードランプになった。

 これが乗用車にも伝わり“サンキューハザード”が広まっていった。乗用車なら感謝の気持ちを伝えたいときは、運転席で手を上げるのがいちばんいいと思う。うまいドライバーなら、クルマの動きからお礼の気持ちがあるかは察しがつく。

 右折待ちをしているときに、直進してくる対向車がピカピカッとパッシングライトを点滅させることがある。出てくるなという意味なのか、先に右折してもいいという合図なのか? 地方により意味が変わることがあるから危ない。行ってもいいということで右折したら、横からすり抜けて来たバイクと衝突してしまう事故を、サンキューとお礼をいいながらぶつかるので“サンキュー事故”と呼ばれている。

 横から来るバイクなども見えるように前を大きく空けて止まれば、合図を出さなくても安全に右折させてあげられると思う。

 信号待ちで前車が発進しないときにホーンを鳴らすドライバーがいるが、筆者は鳴らさず待つ。ホーンは危険が迫ったときの合図だから、発進を促すとか、お礼のプッという合図もしない。自動車の文化度が低い国に行くとホーンの音が街中に響く。

 誤解を招く合図を出すのはキタナイ運転だと意識したい。

こもだきよし/モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会会長。BMWドライビングエクスペリエンス・チーフインストラクター。BOSCH認定CDRアナリスト。1950年、神奈川県出身

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