ボクは、若いときにJICAの長期派遣専門家としてバンコク北部にある準国際機関の大学院、アジア工科大学院(AIT)で、都市計画分野の教鞭をとっていたこともあり、タイのバンコクには深い思い入れがあります。そんなこともあって、今年初め、コロナが落ち着き始めてから最初の海外出張も、最初の家族旅行もバンコクでした。
そして、この夏、もう一度バンコクを訪れ、コロナ前に少し相談を受けていたバンスー地区の開発がどうなりそうか、調べてきました。
インターネット上で公開されている資料にバンスー地区の開発計画図が載っていますので、ご関心のある方はこちららをクリックしてご覧ください。
東西方向約1㎞、南北方向約2㎞の大きな敷地は、もともとタイ国鉄(SRT:State Railway of Thailand)が所有している土地のようです。現時点でもまだ多くの引き込み線があったり、国鉄職員の社宅があったりしています。
そのような土地の真ん中に巨大な新駅(旧称バンスー中央駅、新称クルンテープ・アピワット中央駅)を建設し、タイの各地方にいく在来鉄道や、都市内ネットワークを形成する新しい電車等に乗り換えられるようにし、あわせて地区内に最新の技術を導入して未来の都市を創造していく壮大なプロジェクトです。
いろいろなことをヒアリングし学んだのですが、ここでは2つだけ指摘しておきます。
まず、新しい巨大な駅についてです。骨格はほぼ出来上がっており、多くの列車が乗り入れ始めています。
既存のバンコク都心からやや離れたこの駅に果たして人が集まるのだろうかという心配もあったようですが、徐々に利用者は増えていて、ボクが視察したときの待合空間は、写真のようにある程度賑わっていました。
駅をつくって、始発列車が入線して、コンコースに売店を含めいろいろな空間ができてくると、徐々に人も集まってくるようです。プレイスメイキングという言葉が、街づくりではよく使われるようになってきています。
その元来の意味とは少し異なるかもしれませんが、駅構内の空間がきちんと設計されて、待つことが苦痛でなければ、プレイスになっていくように思います。
もう1点ですが、未来の都市というと、破壊的といえるほど、既存の街並みを無視して、新しい建物群を作り上げていくイメージがありますが、壊すにはもったいないと思える空間がある点です。
写真ではうまく伝わらないかもしれませんが、地区の北側に展開する、国鉄職員の社宅(中層集合住宅や戸建て住宅など)からなる地区では、人々が生き生きと暮らしていて、お住まいの方々、働いている方々がとても幸せそうにしています。
巷では、スマートシティは、ウェルビーイングを高めるための施策というような議論があります。ウェルビーイングの意味はなかなか難しいので、ここでは細かく書きませんが、主体的に行動でき、選択でき、幸せを享受しているような状態だろうと思います。
ただし、この地区を歩いて、次に気づくのは、ゴミ投棄問題を含む衛生面の問題、そして交通事故リスクの問題です。
現在この地区のプランの見直しも議論されはじめているようですが、ボクとしては、もとからある良さ、人々のウェルビーイングにつながる良さを保持、可能であれば向上させつつ、環境問題や交通安全問題を新技術でスマートに解いていき、街の価値が向上していくような街づくりを、ここでお手伝いしたいな、と思った次第です。