ボクはロータリーエンジン車が好きだ。
1967年のある日、2ローターのロータリーエンジンを積んだ世界初の量産車、マツダ・コスモスポーツで箱根を走っていた。ロータリーエンジン車でしか実現できない、低く流麗なプロポーション、そして滑らかで静かで、しかもとんでもないハイペースを許す走りに、心を奪われていた。走り慣れた箱根のワインディングが、初めて走る道のように新鮮に感じた。
そんなロータリーエンジンが、時代の要請に対応しきれず、RX-8を最後に市場から撤退せざるを得なかったのは仕方がない。
残念だった。いつか、復活してくれることを願っていた。
ボクの願いとは違った形だったが、ロータリー復活のひとつの形が示されたのは2013年12月。EVのレンジエクステンダー機能として、ロータリーエンジン搭載のデミオが試作され、ボクも試乗の機会を与えられた。
ロータリーエンジン/発電機/燃料タンクはコンパクトにまとめられ、デミオのリア荷室下部に収められていた。そして、ロータリーエンジンは、「それと気づかないほど静かに」仕事をしていた。
あのときからまた10年ほどの歳月が流れ、市販モデルとしてMX-30R-EVがデビュー。JMS2023では、発電用に2ローターのロータリーエンジンを積んだICONIC SPがスポットライトを浴びた。
ICONIC SPは美しいスポーツカーだ。美しさの根源は1150mmという全高の低さとノーズの低さにある。そして、その低さを可能にしているのがロータリーエンジンなのだ。加えて、理想的な重量配分と低重心も得ている。
最高出力は370ps、パワーウェイトレシオは3.9kg/psとのこと。この数字を見ただけでワクワクする。
ボクの場合、スポーツカーに求めるものは、性能よりも「美しさ」の比重が大きい。ICONIC SPも、「ロータリーエンジンがもたらす美しさ」に、まずは惹かれた。ボクはロータリーの新たな魅力ポイントとして、「デザインの自由度」があると考える。この点を強みとしてプレミアム化、ブランド化を図る戦略はありだと考えている。
ロータリーエンジンは「雑食系」という特色もある。つまり、いろいろな燃料に対応しやすい点に、将来への展望を重ねる人も少なくない。
だがボクは、それ以上に、ICONIC SPが示した「美しさへの可能性の高さ」と「動的資質の高さ」に、未来への期待を抱く。
ちなみに、ICONIC SPのバッテリーだけで走れる距離は100km前後のようだ。実用的には日常の多くはBEVとしてカバーできるだろう。それに、自宅での充電が可能なユーザーなら手間もかからない。
発電による燃費は10km/リッター台半ばとのこと。燃費の壁は依然として厚いが、「美しい容姿」と「心地よい身のこなし」をなにより優先したい、そんな思いを持つ人も少なくない。ボクもそんなひとりだ。
ICONIC SPで示したロータリーエンジンならではの得意技、そこを強くアピールするモデルの登場を大いに期待している。
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員