バルセロナ市を14年ぶりに訪問しました。前回は、初めてということもあり、国際会議の隙間時間の多くをガウディ建築の見学に充てていたような記憶がありますが、今回は、より多くの時間を道路や公共交通の視察及び体験に割り当てることができました。
ボクは世界史をきちんと学んでこなかったので、こういう話も聞きかじりなのですが、バルセロナ市は、独裁的な政治体制が長く続いていた経緯もあり、その反動として、民主主義、その中での公共性についてとても意識が高いのだろうと想像しています。ボクの専門の都市交通計画の分野になぞらえるならば、それは、公共空間と公共交通なのだと思います。バルセロナの凄さは、多々ありますが、この2つの「公共」の強さが半端ではないことを痛感しました。
まず公共空間のほうからお話しします。もともとのバルセロナは、海岸近くの小さな街で、現在でも入り組んだ路地から構成されているゴチック地区という地区がそのルーツです。そこから北及び東側に大きく格子状の道路網からなる都市が形成されていました。格子の一辺は約120mになります。すべての街区が120m四方の正方形になっていて、衛星写真でみても明確にわかります。
言い換えると東西方向と南北方向に120m間隔で街路が構成されています。このいくつかを、歩行者専用化、あるいは自動車の速度が出にくい工夫をして歩行者優先化しています。これは、自動車の利用を減らし大気汚染の改善や地球温暖化抑制に貢献すること、公共空間としての道路の主役を自動車ではなく人にすること、そこでこどもたちはじめ誰もが元気よく過ごせることなどを意図したものです(冒頭の写真)。自動車を通行させない、あるいは通行しにくくすることの影響は、いわゆる交通シミュレーションモデルにて事前検証されており、実際、著しい道路交通渋滞は発生していないようです。
もうひとつが公共交通です。誰でも気軽に使える乗り物として、バルセロナ市では、地下鉄、トラム、バスの他に、自転車などのシェアリングサービスも充実しています。
バスについていえば、南北方向(地図上垂直方向)の路線にV、東西方向(地図上水平方向)の路線にH、市内を斜めに突っ切る路線にDの頭文字をつけたバス路線が多々あり、わかりやすさ高めているように思います。案内の充実はきわめて高い水準です。
駅でのバスなどの乗車場所の案内(写真上)も、バス停での路線案内(写真下)も、きわめて丁寧に用意されています。ある程度の土地勘があって、バス路線系統番号がわかれば、市内は自在に動けます。なお、このバルセロナの路線バスも運賃箱はありません。事前にチケットの購入かタッチ決済対応カードの準備が必要のようです。
さらに、市内では、一方通行規制が幹線道路の多くでも取り入れられ、日曜も含む毎日終日バスとタクシーのための専用レーンも随所に整備されています。バス先出信号(青現示のタイミングをバスレーンだけ数秒早める)なども多く取り入れられています。
スマートシティの土台となるモビリティ(いわゆる移動しやすさの意味)について、その公共的意義を十分に理解したうえで、道路そして公共交通を強化していることが、数日間の訪問で十分に実感できました。
なかむらふみひこ/1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授