【九島辰也のカーガイ探訪記】21世紀名車を選ぶ楽しい時間。視点を変えると候補が変わる(2024年6月号)

21世紀名車を選ぶ楽しい時間。視点を変えると候補が変わる

 今月号の特集は「21世紀名車コレクション」。事前のアンケートで何台か候補を挙げさせてもらった。こういったお題は、考えているだけで楽しいものである。

 そのとき思ったのは、英国車の存在と近未来の姿。ベントレーやジャガーを筆頭にEVメーカーへと変貌する日が迫っている。その理由は英国の経済界にあると思う。世界で最初に産業革命を行った国は、どこよりも早く次のステージへ行きたがるのだろう。ちなみに英国には歴史ある自動車ブランドが多いが、彼らはほとんどお金を出していない。

 ジャガー&ランドローバーはインド、ロータスは中国、ベントレーやロールスロイスはドイツのメーカーが出資と投資を行なっている。つまり、英国人にとっての自動車ビジネスは20世紀の産業であり、自らが投資するような新たなビジネスチャンスではないという考えなのだ。よって、英国人はあっさりとEVメーカーへの移行を容認している。

 そこで気になるのが最後の内燃機関を持った英国車の数々。6ℓや5ℓの大排気量マルチシリンダーエンジン車がたくさんある。これらは貴重だ。大排気量車のイメージが強いアメリカでもそんなモデルは激減した。きっと、これらは英国人的嗜好の産物なのだろう。ジェントルマンは、ときとして過激なものである。

 それはともかく、“名車”を選ぶシステムとして“カー・オブ・ザ・イヤー”がある。日本はもちろん、北米やドイツ、英国など各国にあり、毎年それに値するクルマが1台選出される。

 なので、それを振り返ると歴代モデルに名車と呼べるものが並ぶ確率は高い。ざっと20余年を振り返っても、マツダ・ロードスターやトヨタ・プリウス、日産リーフ、スバル・レガシィ、ホンダ・フィットなどその時代やメーカーを代表するモデルが顔をそろえる。それぞれ一時代を築いたクルマといってもいい。近未来、名車と呼ばれる可能性は高そうだ。

 もっと広い目で見るとどうなるのか。たとえば、20世紀末に“カー・オブ・ザ・センチュリー”なるものがあった。20世紀に発売されたモデルの中から最も自動車産業やマーケットに影響を与えたモデルを選出する賞だ。

 結果は1999年12月にラスベガスで発表された。受賞したのはフォード・モデルT。20世紀初頭、富裕層だけが所有できた自動車を労働者層でも買える価格帯に移行させたモデルだ。ヘンリー・フォードがベルトコンベアによる大量生産方式を自動車に取り入れた賜物である。

 個人的にモデルTが受賞したのは納得だが、それ以外にも魅力的なモデルが最終決戦まで残ったこともお知らせしたい。VWビートル、ポルシェ911、ミニ、フィアット500、シトロエン2CV、シトロエン・トラクシオンアバン、ジープ、メルセデス・ベンツ300SLクーペ、フェラーリ250GT・SWBベルリネッタ、ブガッティT35、シボレー・コルベット、レンジローバーなどなどだ。各車その生い立ちや時代背景、発売後の貢献度などを鑑みると甲乙つけ難いのは、いわずもがな。業界全体に強い影響を与えたモデルばかりである。

 といった感じで振り返ると“名車”と呼べるクルマは数多くある気がする。選ぶ側の国籍や時代、自動車とのかかわり方で観点は変わるが、おおよそ似てくるだろう。それも踏まえたうえで、自分の趣味嗜好で選ぶのもまた楽しい。皆さんもそんな観点で名車コレクションを考えてみてはいかがかな。

 

くしまたつや/モータージャーナリスト。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『Car Ex』副編集長、『American SUV』編集長など自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラシックカーと四駆カスタム

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