森永卓郎ミニカーコラム「マッチボックス・コロネーションコーチ」

マッチボックス「コロネーションコーチ」

 マッチボックスがレギュラーシリーズを発売したのは1953年、エリザベス女王の戴冠式が行われた年のことだった。そう書くと、戴冠式を祝ってレギュラーシリーズを発表したように思われるかもしれないが、そうではない。ただ、戴冠式とマッチボックスには、切っても切れない関係がある。

森永卓郎さん似顔絵

もりながたくろう/1957年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。個人のコレクションを展示する“博物館(B宝館)”を、埼玉県・新所沢で一般公開中(毎月第1土曜日開館)

 実は、マッチボックスを製造するレズニー社(当時はモコ・レズニー)は1952年、翌年に控えた戴冠式を当て込んで、パレードに使われるコロネーションコーチのミニカーを製造、販売した。全長40㎝の大スケールと、ハーフサイズの小スケールの2種類だ。その中で、とくにハーフサイズのモデルは圧倒的な人気を集め、販売数は100万台を超えたといわれる。

 これで自信を深めたレズニーは、満を持して、レギュラーシリーズの販売開始に踏み切ったのだ。

 写真は1952年発売の小スケールのモデルだ。実車はゴールド・ステート・コーチと呼ばれ、イギリス王室が代々戴冠式で使用する8頭立ての馬車だ。1762年に建造され、金箔が全面に施された豪華絢爛な作りになっている。だからコーチの部分は、本来金色でないといけないのだが、レズニーのモデルは、大スケールのモデルは金色で塗装され、小スケールは銀色の無垢のままだった。

 コロネーションコーチは、1977年のシルバー・ジュビリー(戴冠25周年)の際に、大スケール、小スケールともに、再生産された。比較的忠実に復刻されたため、発売当初のモデルとの区別が難しいのだが、車輪のスポーク数が復刻版のほうがずっと多くなっている。こうした知識があれば、区別はつく。

 また、昨年のチャールズ国王の戴冠式に合わせて、コロネーションコーチは再び復刻されたが、ボクの知る限り大スケールだけが発売されたようだ。このときのモデルは、コーチにプラスチック製の窓ガラスが付けられたので、区別は容易だ。

 小スケールミニカーの分野で世界市場を席巻したマッチボックスは、1970年代にマテル社のホットウィールとの競争に敗れ、事もあろうにライバルのマテル社に買収されるという数奇な運命をたどった。

 ただ、そのマテル社がマッチボックス全盛期のモデルを復刻するというリスペクトを持ち続けていることが、コロネーションコーチから伝わってくることがうれしい。

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