森永卓郎ミニカーコラム「コーギー・ロータスF1」

「ブラックビューティ」を生み出したJPSカラーの歴史的意義

 かつてF1マシンのボディがタバコのデザインだった時代があった。巨大な売り上げ規模を持つ一方で、テレビCMが制限されていた時代のタバコメーカーにとって、F1レースは、格好の宣伝素材だったからだ。  アイルトン・セナ選手がドライブするマクラーレンのマールボロ・デザイン、中嶋悟選手がドライブするロータス・ホンダのキャメル・デザインなど、サーキットをタバコのパッケージが走り回っていた時代があった。

森永卓郎さん似顔絵

もりながたくろう/1957年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。個人のコレクションを展示する“博物館(B宝館)”を、埼玉県・新所沢で一般公開中(毎月第1土曜日開館)

 そんな中、マリオ・アンドレッティ選手がドライブするロータスは、真っ黒なボディに金色の文字が入ったJPS(ジョン・ジョン・プレイヤー・スペシャル)のデザインで、出色のカッコよさだった。

 ただ、正直いって、当時JPSがタバコのブランドであることをボクは知らなかった。まだ中学生で、タバコとは縁のない暮らしをしていたし、当時は外国産のタバコが浸透していない時代だったからだ。実はF1マシンのタバコデザインは、70年代半ばから徐々に減っていく。73年にドイツが自動車レースにおけるタバコ広告を禁止する方針を打ち出し、80年にイギリスが、93年にフランスも同様の方針を採ったからだ。

 それでも、最大のスポンサーを失えない国際自動車連盟は、さまざまな規制回避策を取ってタバコデザインを温存しようとした。だが、結局、2000年代をもってタバコデザインのF1マシンは姿を消してしまった。

 そうした中でミニカーは、子供たちを販売対象としているため、もっと厳しい規制が敷かれた。実車にまだタバコのブランドが残っている段階でも、それを外したモデルが発売されるようになったのだ。

 写真は、まだタバコ規制のなかった1970年に発売されたコーギーのJPSロータスのマシンだ。50年以上前のモデルにもかかわらず、輝きが完全に残っていて、美しいとボクは思っている。実は、このモデルは最近、ネットオークションで入手したものなのだが、落札額はわずか100円だった。ボク以外に入札者が誰もいなかったのだ。

 もしかすると、多くのコレクターにとって、タバコデザインのF1マシンは、遠い記憶の、そのまた圏外になってしまったのかもしれない。ただ、天邪鬼のボクは、タバコデザインのF1マシンだけを集めて展示したいなと考えている。

 お金はかからないから、われながらいいアイデアではないかと思うのだ。

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