※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2024年5月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
先日ホンダが開催した“スポーツe:HEVテクニカルワークショップ”なる取材イベントに参加してきた。現行シビックから採用されている新開発2L直噴エンジンを搭載したハイブリッド機構、スポーツe:HEVについて、クローズドコースで新型アコード・プロトタイプを用いた新旧比較試乗や、ZR-Vでの公道試乗によって、その魅力を存分に理解してほしいという企画である。実はここで私が感じていたのはある種の“矛盾”だった。
2021年、ホンダの三部敏弘社長の就任会見での「2040年までに四輪車をすべてEV/FCEV化」という“脱・エンジン”発言からして、国産勢の中でもフル電動化のイメージがすこぶる強いメーカーだ。そんな中で、今回のイベントに参加するにあたり、どこかモヤモヤする感じがしていたのだ。
もともと個人的にはe:HEVの“コンセプト”が好きだった。モーターとエンジンをそれぞれの得意なシーンで使い分けるべく、エンジン直結モードがある。要は“エンジンが得意なところは積極的に仕事をさせる”という点に“エンジン屋”とも呼ばれたホンダらしさを感じて、魅力的に感じていた。正直なところ、公称燃費の絶対数値比較など、長い期間をともに過ごす愛車となれば、そんなものは“ただの数字”でしかない、とさえ思う。
この1日を通して、最新のスポーツe:HEVの技術的進化、それによる新型アコードのドライバビリティの向上を理解し、その好意度はさらに高まった。試乗後、技術説明をしてくれた開発エンジニアの方にちょっと意地悪な質問を投げてみた。「EVもエンジンも全部やるって公言するトップがいるメーカーをどう思いますか?」と。
それに対する答えは「正直うらやましいとは思う。ただ、自分たちは与えられた仕事をしっかりと取り組むだけ。いまの仕事には誇りを持っている。」とのことだった。そんなエンジニアの心意気に触れたことで、私はますますe:HEVのファンになってしまった。
後日、またしてもホンダ広報から連絡が入り、「CESで発表した“0シリーズ”(ホンダの新しいグローバルEVブランド)のコンセプトカー2台を青山で展示することになったので取材してほしい」とのこと。そこでは商品企画部長とチーフデザイナーそれぞれとのインタビューができたのだが、そこで感じたのは、また別の意気込みだった。新たなHマークの新ロゴまで用意したこともあり、「これが今後のホンダのVI(ビジュアル・アイデンティティ)になっていくのか?」という質問を投げかけた。
つまり、100%電動化を宣言しているホンダとしては、この0シリーズが“ホンダのど真ん中”になり得るのか、ということだが、回答としては「いまはまだそこまでの考えはなく、別のものとして捉えてほしい」とのことだった。これで私は腹に落ちた。要するに、現場としてはこの不確かな環境下の中で、いまは両方頑張っていくしかないことをよくよく理解しているということだ。
トップが何を宣言したかどうかはさておき、ホンダで働く一人ひとりが、それぞれの誇りをもって働いているということだろう。
今年に入り、マツダがロータリーエンジン開発グループを復活させ、ついにはメルセデスが2030年までの完全EV化を撤回し、新エンジンを開発中と発表した。脱炭素の課題はなくならないものの、とりあえず現実的な歩みに戻りつつある。メーカー各社の技術開発に携わるエンジニアの方々が粛々とこの課題に取り組む姿に、あらためて敬意を表したい。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
▼本誌『CAR and DRIVER』(2024年5月号)の詳細はこちら
https://www.caranddriver.co.jp/book/70664/