2024年12月号のテーマは「スーパーカー新時代」。いつの世もスーパーカーは憧れの存在だけに動向は気になる。でも「スーパーカーとはなんぞや?」と考えたとき、その定義は曖昧な気がする。
ブランドなのか、馬力なのか、ドアの枚数や定員なのか、デザインなのか……。しかも時代によっても分類されるクルマが異なる。それこそ昭和のスーパーカー・ブームにはシボレー・カマロなんかも入っていた。「Z28だ、すげー!」って感じ。いま考えれば、カッコイイのは確かだが、スーパーカーではないような気がする。
それを鑑みると、スーパーカーとは“非日常を味わわせてくれるもの”という思いが強くなる。使いきれない馬力、不便なカタチ、ドライバーズシートに座るとワクワクする造形などだ。つまり、ユニバーサルデザインとなった大衆車とは真逆の存在である。
と考えると、かつて人気を博したハマーH1もそこに入ると思う。ハマーは背が高いとか低いとか関係なく、まったくもって非日常を感じさせてくれるクルマだ。
特徴は走行中にタイヤの空気圧を変えられたり、フロントのアプローチアングルが72.5度あったり、ボディ下で爆弾が爆発しても耐えられたり、するところ。通常ボディ下部で剥き出しになっているプロペラシャフトやエグゾーストシステムをすべてキャビン内に持ち上げることで、鋼鉄板を下回りに貼り、強い衝撃にも耐えられるようにした。
どうです、非日常でしょ!
このクルマを開発したのはAMゼネラルという会社で、インディアナ州サウスベントという小さな街にある。1960年代に倒産したスチュードベーカーの本社があったところだ。
個人的にその街にホームステイしていたことがあり、AMゼネラルの本社にも、スチュードベーカー本社工場跡地にも行ったことがある。赤いレンガの壁が懐かしい。要するにかつてのモータウンの一角だ。
AMゼネラルの創業は1971年。前年にAMC(アメリカンモーターズ)が、当時ジープのライセンスを持っていたカイザージープ社を買収したことで誕生した。つまり、AMCの軍事専用車メーカーが起源。 なので、ハマーH1がどことなくジープと似ているのは当然のこと。前後のオーバーハングを短くしてアングルを稼ぐ手法はまんまジープのセオリーだ。
そんな彼らが作った通称ハンビーと呼ばれる高機動多目的装甲車の市販版がハマーH1である。市販に至ったきっかけに俳優アーノルド・シュワルツネッガー氏が関係しているという話があるが、まんざら嘘ではないようだ。過去それについての英語の文献をいくつか目にしている。
というのが1990年代の話で、2000年以降になるとその人気に目をつけたGMがAMゼネラルを買収し、シルバラード・ベースのハマーH2やトレイルブレイザー・ベースのハマーH3を発売する。この辺のモデルは日本でも人気になったので記憶している人は多いだろう。
それはともかく、ハマーH1のステアリングは何度も握ったことがある。都内近郊はもちろん、長野エムウェーブのイベント出展に往復したことも。その走りはまさに非日常。キャビンからの景色はいつもとはまったく違った。
考えてみれば、あれが背の高いスーパーカーの起源だったかもしれない。やっぱりスーパーカーとは、何年経っても心に残るものなのだ。
くしまたつや/モータージャーナリスト。2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『Car Ex』副編集長、『American SUV』編集長など自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラシックカーと四駆カスタム