※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年1月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
私は欧州車が好きだ。魅力的であるとか、官能的であるとか、そういった理由よりは、“運転していて心地よい”からだ。デザインには個々人の好みがあるし、運転のしやすさというのも、その人の使い方や利用シーンによって考え方はそれぞれでもあるが、自分の感覚に対して、兎にも角にもバランスがいいのはとくにドイツ車だと思う。日常的に高速道路を走行する機会が多いのもあって、そこで快適に感じるかどうかが好みに与える影響が大きい。
事実、過去10年ほどでみた自身の愛車歴10台のうち、BMWが5台、メルセデスAMGが1台とドイツ車が過半数。国産はマツダが3台、残り1台は三菱となっている。国産勢にも偏りがみえるのは御愛嬌だが、やはりドライバビリティを重要視したチョイスである。ちなみに、アウディやフォルクスワーゲンは残念ながら所有するに至ってはいないが、つねに候補には挙がっており、今後も気になる存在である。
さて、今回(CAR and DRIVER 2025年1月号)の巻頭企画「ドイツ勢の最前線」の決定に至った背景としては、ひとつはBEV潮流の変化がある。前号ではスーパーカーを題材に、電動化をポジティブに組み入れたケースを紹介した。ドイツを含む欧州でのBEV推進に関するゴタゴタをみると、一旦整理してみよう、という気持ちがわいてきた。といっても、個人的にはBEVのドライバビリティは好きだし、とくに日常使いではもはや最強レベルともいえる。それでも、充電設備、価格、連続使用を前提とした航続距離や可用性などを考えると、利用シーンが制約されるBEVにすべて切り替える、という拙速ともいえる動きは、少なくとも日本においては現実的でないことは自明でもあった。事実、トヨタをはじめとしてマルチパスウェイが現時点での正解であることが、欧州勢の揺り戻しによって証明されつつある。
ただ、フォローするわけではないが、クルマのよさだけでいえば、ドイツ勢のBEVは本当に秀逸だと思う。使いやすさ、ドライバビリティ、そして安心感。どこと比べてとかではなく、1台1台がよくできていると感じさせられる。さすがドイツ車だ、と。そして、これからも気になるBEVの新型モデルが続々と出てくることも明らかになっているので、世の中の流れがどうなるかはさておき、新たな魅力的なクルマが出てくることへの期待は変わらずあるのは間違いない。
しかし、今回の特集で取り上げた車種はすべてエンジン搭載モデルとした。どっちがいい、悪いとかそういったことを伝えたいわけではない。「お国の事情」が多分に絡んでいた欧州勢メーカーの戦略を揶揄するつもりもない。
これまでもそうだったように、ドイツ勢はつねにベンチマークとして追われ続けてきた存在であり、これからもすべてではないにせよ、そうあり続けるだろう。今回、その中でもエンジン搭載車の新型モデルにあらためて注目して、現時点におけるドイツ勢のよさと完成度をあらためて知りたかった。そして、それを伝えたかった。それが今号の特集の意図である。
もうひとつの特集はMINIの新型モデルをフルラインアップで紹介する企画を用意した。新しいMINIは、BEVもあればエンジン搭載車もあり、見事に同じブランドで異なるパワートレーンがミックスされている好事例だからだ。そう、実はこれが今現在における最適解なのかもしれない。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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