※本記事は本誌『CAR and DRIVER』(2024年12月号)の巻頭コラム「from Editors」より抜粋したものです
カーボン・ニュートラルという世界共通の課題に向き合う自動車業界で、独自の進化を遂げている分野が「スーパーカー」の領域であろう。スピードとラグジュアリーを兼ね備えた、文字どおりの超絶的な存在。そこにあるのは、大義名分や義務感ではなく、あくまでも「次なるお題」でしかないのではと思うほど、電動化を用いてさらにその存在感を加速させている。今月号(2024年12月号)の巻頭企画は「スーパーカー新時代」として、そんなクルマたちをまとめて出してしまえ、という勢いで作ったものである。
この界隈での最近のトレンドは、未だといってよいのかどうか、明らかに「エンジン」である。カーボン・ニュートラルに向けて電動化……という文脈はもちろんあるのだが、クルマの個性を表す手法としては、依然としてエンジンの存在が強く出ているように思う。それが顧客ニーズだから、といえばそれまでかもしれないが、そもそもスーパーカーたちの主題は「エコ」ではなく「スピード」だ。
さらにいえば、絶対スピードというよりは、そのクルマをドライブしている「体験」そのものの価値を最大化することなので、その演出に欠かせない、あるいは最も効果的なのは、依然としてエンジンなのは間違いないだろう。
個人的にもV12エンジンを搭載したPHEVであるランボルギーニ・レヴエルトを、7月に富士スピードウェイでドライブし、そのポテンシャルの高さを肌で感じたうえで、先日公道でも乗る機会に恵まれた。動き出しはモーターで静かに動き、モードセレクトでSTRADAに入れた途端にV12エンジンの咆哮がヴォンと鳴り響き、街中を歩いている人も含めて体がビクッとする、あるいはゾクッとする感覚。カーボン・ニュートラルも何もない、車内には官能と喜びそのものしかなかった。
ただ一方で、どこか申し訳ない気持ちも湧いてくるのも事実。そう、この手のクルマは公道を乗り回すよりも、やはりサーキットが似合うと思う。
電動化といえば、やはりBEVがどうなっていくのかが気になるところ。先日、Honda 0 Tech MTG 2024と称されたイベントに参加してきた。詳細は本誌記事をご覧いただくとして、個人的に思ったのは、電動化という流れはこれまでの延長線であると思う一方で、新時代の幕開けでもあるということ、私たち自身が頭のモードを切り替えないといけない段階がすぐそこに迫っているということだった。
言い換えれば、どんないいクルマが出てくるのか、メーカーがどんなものを提供してくれるのか、という待ちの姿勢では、今後の新たな可能性を理解できないばかりか、この市場が発展せず、つまりはイノベーションも進まなくなる、という危機感さえ感じた。今後生まれてくるBEVに対して新たに生まれてくる「別の乗り物」として捉えることができれば、そこから新たなニーズが生まれ、メーカーとしてもよりよいプロダクトを送り出してくれることにつながる、という可能性を感じたのだ。
既成概念の中ではイノベーションは生まれない。IT/デジタルの進化と同様に、いまモビリティの世界でもパラダイムシフトが起ころうとしている。
ここで重要なのは、メーカーとユーザーとの共創、つまりは私たち自身が積極的に興味関心を持って、この流れに参加していくことなのだと思う。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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https://www.caranddriver.co.jp/book/84106/