※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2024年10月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
今月号(2024年10月号)の特集テーマは、かのフェラーリである。だれもが大なり小なり心のなかで憧れを持つ存在であり、俗世に生きる人々の中でその名を知らぬ者など出会ったことがない。ただ、「フェラーリとはどんなブランド、またはどんなクルマを作っているのか」と自問自答しようとすると、恥ずかしながら自身の知識レベルの薄さを露呈してしまうことを恐れるがゆえに、どうも口をつぐんでしまう。
それくらい、フェラーリは奥深き存在であるだけでなく、軽々しく語るべきではないという思いに駆られる偉大なブランドであると私は思っている。その大きな理由のひとつは、私自身がフェラーリの実車を所有したこともなければ、ドライブするという経験値も圧倒的に足りていない。
正直にいうと、本誌内で紹介しているフェラーリ296GTB/GTSを箱根界隈で撮影する際に、広報車の借り出しから含めて約200km程度をドライブしたことがあるだけだ。もちろん、一般道のドライブなので、そのポテンシャルのすべてを感じることなどとうていできず、ただただその奥行きを想像する入り口を垣間見ただけにすぎない。
幸い、本誌執筆陣には、西川淳さんや大谷達也さん、そして今回もナビゲーターとして参画していただいた九島辰也さん、それぞれ数々の海外試乗に出向いている大ベテランともいえる方々がいるので、彼らが語る世界が本当のフェラーリの姿であることは間違いなく、だからこそ、なんとなくフェラーリのことを知った気でいられたし、読者の方々にとっても、一部の幸運なオーナーたちは除いて、ほとんどの方が同じ気持ちではないだろうか。
誤解なくいうと、「知った気でいる」でも私はアリであるとおもっている。それで楽しい、幸せな気分になれるなら、何も悪いことはない。でも、やはり知識というのは、正しく身につけるべきであるし、時折アップデートすることに越したことはない。なので、白状してしまうと、今回の巻頭企画のテーマを「最新 フェラーリの世界 - All about Ferrrari 2024 -」とした背景にあるのは、私自身が映画『フェラーリ』を観たことで、あらためて「最新のフェラーリについて知りたい」と思ったから、というきわめて自分勝手な都合があった。だが同時に、読者の皆様にもきっと喜んでもらえるはずということも、編集部一同で納得できたのもまた事実である。
知った気でいる、といえば、私のキャリアの大部分で関わってきたテーマである「マーケティング」や、メディア業界とより密接なテーマでいえば「PR(パブリック・リレーション)」もその題材として挙げられる。それらの詳細を説くことは本稿では避けるが、それぞれの言葉から、なんとなく知っている気がしているが、何をするのか、どんな歴史があるのかなど、実はよくわかっていない、というテーマは世の中に無数にあるものだ。
気になったら調べる、ということが手元のスマホで簡単にできるようになったいまの時代、書店に行って文献を買い集める、といった行動はもうなかなか見られない光景だろう。ただ、ネット上にある情報が世の中の情報のすべてではないことを痛感している身からすると、こういった「あらためて知る」というアーカイブ性のあるコンテンツこそ、雑誌メディアで取り組むべきものだと確信している。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
▼本誌『CAR and DRIVER』(2024年10月号)の詳細はこちら
https://www.caranddriver.co.jp/book/81151/