※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2024年9月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
はじまりは2024年2月、都内某所で行われたとある新年会に参加させていただいたのだが、そこでどんな出会いがあるかはまったく予想できていなかった。会場となったレストランに少しばかり遅れて到着すると、そこにはすでに身なりの整った紳士淑女たちが集い、みな楽しそうに食事と会話を楽しんでいて、素敵な雰囲気に包まれていた。
聞けば、ここに集まっているゲストはみなクラシックカー愛好家たち。ラリーやイベントなどに積極的に参加するような、アクティブな大人のカーガイだという。
席につくとほどなくして、この会の主催者が登場。丁寧なご挨拶ののち、発表されたのが、今号(2024年9月号)の巻頭企画「超絶・本気のクルマ遊び」で取材した『鈴鹿クラシック2024』の概要だった。
ただただ衝撃だった。世の中にこういった世界が本当に実在することを目の当たりした驚き、そしてそれを本気で取り組んでいる大人がいる。面白いことをやる、そしてそれが文化をつくっていくという信念を強く感じた。笑顔の奥にある情熱、そしてワクワクしている少年のような気持ちが見えてきた。絶対にこれは取材するぞ、と心に誓った夜だった。
一般的にクルマ好きといっても、実は決まった定義がない。今も昔もそれは変わっておらず、その数が多いがゆえ、カー用品店に行くとか、趣味はドライブとか、言い始めたら枚挙に暇がないが、これだからクルマ好き、というものはない。要は、多様すぎるのだ。ただ、その中でも、クルマを愛でて、そのクルマを思う存分ドライブする、というのがコアな部分だといえるのではないだろうか。
ここ10年で、物に対する価値観は急速に多様化が進んでいる。所有ではなく、シェアする。あるいは、共同所有という選択肢さえ出てきた。過去を振り返って、それらがまったくなかったわけではないが、明らかに一般化しているのは間違いない。事実、都心部ではカーシェアの車両を見ない日はないし、新しいサービスも次々と生まれている。クルマをアート作品として、一度も運転すらしないかたちで共同所有するサービスまで出てきた。
クルマ好きのかたちは人それぞれでいい。それでも自分が好きなのは、オイルやガソリンの匂いがするマシンを駆って、楽しそうにドライブする大人たちの姿だ。自分もその中に混じってレースなんてできようものなら、最高の幸せ以外の言葉が見つからない。
今回の特集に限らず、取材活動を通じて、さまざまなクルマ好きの方々にお話を伺ってきたが、共通していえることがある。皆それぞれ、クルマに魅了された原体験があり、その延長線上にいまの趣味、クルマ好き活動につながっているということだ。
自分自身、この特集を作る過程で、記憶の彼方にしまわれていた、自らのクルマ好き原体験が蘇ってきた。17歳の頃、従兄弟に連れて行ってもらった、富士スピードウェイでの305ミーティング。そこで見たクラシック・ミニの模擬レース、当時まだあったバンクをスーパー・セブンが駆け抜ける姿に衝撃を受けた。あのときの雰囲気が、おぼろげながらの記憶が頭の中で蘇る。
そして2024年、鈴鹿クラシック2024に訪れて、クラッシック・レーシングカーの凄まじいエンジン音を聞きながら、自分もこんな遊びがしたい!と思った。さて、まずは念願のクラシック・ミニを手に入れなければな。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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