※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2024年7月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
2024年7月号の巻頭企画は、その名も「ホンダの底力」。ホンダ三部社長は2021年4月の就任会見で脱・エンジン宣言を行い、2040年をターゲットとしたフル電動化戦略に舵を切った。が、最近続々と登場する新型車たちはいまだすべてエンジン搭載車であるし、それらはどれも実力派揃いであることは、本誌執筆陣のレポートからもわかるとおり。毎月お決まりの長時間の編集会議で、このホンダ車の躍進ぶりが話題に上がり、いまのホンダについて一度しっかりと掘り下げてみようではないか、となり、今回の巻頭企画がこのテーマに決まった。
そもそもホンダとはどんな企業なのか、あるいは彼らの独創的な企画力や、F1を象徴とする競争力などについて考察しながら、過去の名車便覧など、着々と誌面制作を行ってきたが、校了締め切り直前となる5月16日「2024ビジネスアップデート」と題したホンダ社長会見が行われるとアナウンスがあったので、これは見逃せないと参加させてもらうことにした。
当日の発表内容を要約すると、2040年までに新車販売をすべてEV/FCEV化するという目標は変わらずだが、足元ではハイブリッドもいっそう進化させることでICE事業を通じた収益性を担保しつつ、投資額を大幅に増加させることでさらに加速させる、というものだった。ブレずにカーボンニュートラルの実現に向かって電動化を軸に計画を邁進しているホンダだが、現時点では中長期で掲げている目標との現状のギャップが大きすぎて、どうにも腹落ちしない感じがしていた。
ありがたいことに、この会見後、三部社長と直接話ができる機会をいただいた。このモヤモヤ感を解消できるかもしれないと期待しながら、他の参加者と共にいろいろと話が進む中で、「開発現場ではいまなお粛々と続いているエンジン開発についてどのように考えているか?」と聞くことができた。
するとほぼ即答で「まず、エンジン開発は完全にやめることはない」と、意外な答えが返ってきた。そしてこうも続けた。「合成燃料(e-fuel)などもあるので研究自体は止めないで、何かあったらまた作れるように一部隊は残すと決めている。」と。 もともと「エンジン屋」だった三部社長は、力強い眼差しで引き続き語り続けた。
「今後もパワーユニットを武器にしたい方針は変わっていないが、エンジンがCO2を排出するのは間違いないこと。だから(エンジンは)やめたほうがいいと考えている。時代に合ったパワーユニットを作っていきたい」
やはり…と思いながらもさらに話は続く。
「それでも(エンジンの)研究は止めない。しかし、メインのシナリオに(エンジンを)置くのはもう難しい。ただ、できるかはわからないが、たとえばe-fuel専用エンジンのスポーツカーを作るとか、そういったことができるくらいは残す」
そう、ひょっとするとリップサービスなのかもしれないが、私はこういう言葉を聞きたかったのだった。連結ベースで約20万人のトップに立つ元エンジン屋でもある経営者が、これからを見据えた決断として「脱エンジン」にこだわり続けている。その一方で、エンジン開発は残す、研究は止めない、とも力強く言い切っている。これを正義のダブルスタンダードといわずして、なんといえばいいのか。そう、これこそ私が期待していた「ホンダらしさ」であり、先ほどのモヤモヤ感は跡形もなく消え去った。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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