※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2024年6月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
先月号(2024年5月号)の巻頭企画 「20世紀名車コレクション」で紹介したクルマたちは、多くの愛好家に支持され、そして語り継がれるべきストーリーがあることで 「名車たる条件」を明確に持っていた。そして、それらを所有することは「夢」であって、一部の幸運な方々はさておき、多くの方にとっては現実味がやや薄いところがあったかもしれない。
それに対して、今号(2024年6月号)の巻頭企画「21世紀名車コレクション」では、「今買っておきたい」というテーマのもとで、より現実的な選択肢として考えられる「21世紀の名車候補」といえるクルマを紹介することにした。その選定条件は、正直にいってきわめて独断と偏見に基づいているものだ。
それは、長年クルマに関するコンテンツを手掛けてきたカー・アンド・ドライバー編集部の面々が、今世紀を代表するであろうと「認める」ことができるクルマであること、また「乗ってみたい」だけではなく自らが「ほしい」と思えるクルマであること、そして何らかの理由で「好き」だとシンプルにいえること、たったこれだけで2001年以降の21世紀に生まれたモデルの中からピックアップした。
「これだけ」といっても、この選定だけで何時間を費やしたか、というほど編集会議は盛り上がった。一人ひとりが「なぜこのクルマを取り上げたいか」を熱烈にプレゼンしたかと思えば、ああでもないこうでもないという評論大会にまで発展。このままだと収束できないかもとも思いきや、最終的には「好き」かどうかが、お互いの意見を上書きして、お互いの納得感を生み出す最大公約数となった。
クルマ選びは、まるでトーナメント戦のようだと思う。なんらかの条件によってリストアップしたクルマの中から、優劣ポイントを洗い出し、それらを比較検討したうえで、実際に購入に至るというプロセスは過酷なものだ。 条件面を眺めていると、どうしても悩んでしまう。新車購入はとくに数字がその判断を左右させやすい。さまざまなスペック、金額、そして納期などだ。ユーズドカーに至っては、一台一台がすべて異なる分、勝手が異なるが、最終決定するにあたっては、やはり同じように悩んでしまう。
そんなときに思い出してほしいのが、今回の企画で用いた選定条件の最大公約数、そのクルマのどこが 「好き」なのか、という基準。「好き」な理由をより多く語れるクルマが、あなたにとってのベスト・チョイスになるはずだ。 先月も紹介したマイカーの1台、マツダRX-8についていえば、ちょっと検索するだけで、「買ってはいけない」だとか、「メンテナンス費用がかかる」とか、いろいろとネガティブな話題がどんどん目の前に飛び込んでくるではないか。
けれど、他人の評価は所詮他人のものであって、それらを情報として受け入れたうえで、結局は自分が「好き」だから購入したわけだ。もちろん、未来永劫持ち続けられるかどうかはわからないし、おそらくこれまでの愛車たち同様、どこかでお別れすることになるかもしれない。
ロータリーエンジンだし、しっかり4人乗れる&意外と荷物詰めるし、走りもいいし、なによりデザインが「好き」。そう、結局は「好き」なことが一番なのだ。あ、これってもしやクルマだけの話ではない?と思ったあなたはセンスがいいし、最高のロマンチストである。間違いない。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
▼本誌『CAR and DRIVER』(2024年6月号)の詳細はこちら
https://www.caranddriver.co.jp/book/75160/