世に送り出されるストーリーの裏側にある多くの工夫と苦労【コラム|from Editors - 2024年4月号】

 

雑誌媒体に求められる価値提供のあり方のアップデート

※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2024年4月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです

  過去20年で情報環境は劇的に変化し、いまやスマホやPCで誰もが簡単に、しかも無料でさまざまな情報が手に入る時代になった。紙であり有料という、もはやニッチともいえる存在の私たち雑誌媒体は、その価値提供のあり方を見直すことを迫られている。

 そんな中、カー・アンド・ドライバーでは、より多くの「ニュース記事」 の提供よりも、徹底的に突き詰めた「良質なストーリー」 の発信について、これまで以上に注力する方針である。こと毎号渾身の巻頭企画については、あれやこれやと長時間にわたって討議しながら編集会議で生み出されているのである。

80年代&90年代から生み出された名車の子孫に注目

 さて、本誌『CAR and DRIVER』の今月号(2024年4月号)の巻頭企画は「Beyond ’80s&’90s」と題して、バブル経済真っ盛りの1980年代、その余韻が残る1990年代に生み出されたモデルを祖とする、ひときわ輝きを放つ最新モデル10台を特集した。この企画が生まれたきっかけのひとつに、先月号(2024年3月号)の巻頭企画「疾走る。」のトリを飾り、今回の特集の1番手を飾った、昨年末に発表された改良型マツダ・ロードスター試乗会の案内があった。

 この試乗会の開催時期が今月号の制作進行時期と重なっており、さらに発表されていた改良内容を精査するとそれに対する期待感も大きく、2号連続にはなるものの、ぜひ大きく取り上げたいという気持ちになっていた。ただ、単純にニューモデルとして紹介するのでは芸がなさすぎるし、購読者の皆様に申し訳ない。というわけで、先月号とは違った切り口とする企画を念頭におきながら、ロードスターが誕生した1989年前後に着目したことをきっかけに、今回の企画の姿へと見事に膨らんでいったのだった。

マツダ・ロードスター改良型そのものへの感動と広報関係者への感謝

 先日、期待の改良型マツダ・ロードスターの試乗会に参加してきた。クルマそのものの詳細については本誌執筆陣の評論家諸氏に委ねるとして、個人的に好印象だったのは試乗会のプログラム内容だった。一般的に「メディア向け試乗会」というのは、ほぼクルマの撮影のために時間がとられてしまう場合が多く、十分な試乗ができるかといえば、ディーラーで体験できるいわば「チョイ乗り」ほどではないものの、「しっかりと味わう」といえるほど乗れないのが実態だ。

 しかしながら今回の試乗会では、比較用に改良前モデルの試乗車がすべての参加枠に提供され、さらには撮影車両を試乗車とは別に用意するなど、実際の試乗に時間をしっかり割いてほしい、という意図が存分に伝わってくるプログラムであった。これはメーカーとしての今回の改良型モデルに対する自信の表れであるだろうし、この改良型ロードスターの魅力を伝えるには、試乗体験に注力することが最良だという確信ゆえだったのかもしれない。

 いずれにせよ、一般道で開催される通常スタイルの試乗会としては、充実度が高かったというのは私の素直な感想であるし、他の業界関係者のSNS投稿をみると一様に満足げだった様子が伝わってきたので、きっとこの感覚は間違いなかったと思う。

 マツダに限らず、どのメーカーも基本的には試乗会などのイベントでは、そのクルマをメディアに正しく、情報を余すことなく伝えるよう工夫がなされている。ただ、さまざまな制約条件によって、その内容には毎回苦慮されているのだろう。今回印象的だったのは、そんな中でも可能な限りの工夫を凝らしたのだろうと思ったこと。開発者のみならず、その裏側で活躍しているスタッフの方々にも敬意を表したいと感じたのであった。

Newマツダ・ロードスターの試乗会で用意されていた比較用の改良前後のモデル(手前が改良型、奥が従来型)。外装に大きな違いはないが、走りは明らかに進化していた

文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

▼本誌『CAR and DRIVER』(2024年4月号)の詳細はこちら
https://www.caranddriver.co.jp/book/68171/

雑誌『CAR and DRIVER』連動記事

CAR and DRIVER (2024年4月号)のご紹介

  • 【巻頭企画:Beyond ’80s&’90s 魅力あるクルマのルーツは「あの頃」にあった】
  • 【名車復刻版カタログ:特別編】1989年生まれの名車たち
  • 【プラグイン・ハイブリッドという選択肢】
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