▲小沢コージと一緒にポーズを取ってくれるホンダN-WGN開発責任者の古館茂氏 古館氏は新型N-VANの開発も指揮した
いままでバカ売れの兄弟車、N-BOXほど売れてなかった軽セミトールワゴン、ホンダN-WGN(ワゴン)。しかし今回発売の2ndモデルは事前受注1万2000台と人気爆発の予感。N-WGNは、なぜここにきて猛威を奮いつつあるのか? 小沢コージが開発者、古舘茂氏を直撃した。
●初代はマジメにライバルを見過ぎてしまっていた
小沢 初代N-WGNは、ぶっちゃけN-BOXと比べるとあまり売れていませんでした。2013年の発売直後は人気でしたが、昨年あたりの販売をみるとクラストップのスズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーブはもちろん、日産デイズやスズキ・ハスラーにまで抜かれている。
一体なぜN-BOXは売れ続けたのにN-WGNはダメだったのでしょう? プラットホームは基本同じだし、クルマの出来はよかったと思うのですが。
古館 すごく明快な答えがいえるかって難しいですが、我々なりに考えたのは、やはりN-BOXは他社製品と違って見えているのではないかと。
もちろんN-WGNも同じように作ったつもりなのですが、ただ初代は市場のど真ん中を狙おうとか、「ホームラン軽」とかそういう考え方で、価値観のど真ん中に置いて作ったのです。
小沢 要するにワゴンRやムーヴとガチンコ競争で作ったと。
古館 そうです。よって出した時は評判よかったですけど、他社も同じようにモデルチェンジするたびにどんどん埋没してしまい、最終的にお客さまに聞くと「どれがN-WGNかわからない」という声が。
小沢 なるほど。マジメに作り過ぎたのが災いして、他社と似てしまっていたと。それに比べるとN-BOXはどこが違ったのでしょう?
古館 クチコミです。我々がお客様に、なぜN-BOXを購入いただいたのかを聞くと「誰々さんが乗っていた」「近所の方が購入した」というのがすごく多い。
とくに郊外ではクチコミが一番強い宣伝効果があります。クチコミでいいよ、いいよ、と、どんどん伸びていった。
▲初代N-WGNがN-BOXほど大人気にならなかった理由はデザインが埋没していた点が否めないと古館氏は分析 ライバルを意識しすぎたか
小沢 N-BOXの場合、確実に他社と同じようなクルマではなく、他社に似てはいるけど越えていて、違って見えたと。どっちも基本的な広さ、燃費、質感はクラストップですよね。
古館 そのとおりですが、ただしデザインの方向性が違っていて、N-BOXはどちらかというとタイムレスな方向でデザインしていましたが、N-WGNは時代に合わせた流行のデザインを採用している。
小沢 それにしても1stN-WGNの5位って低すぎるなと。
古館 そうなんですよ(笑)。決して悪いクルマじゃないですし、乗ったらすごくいい。我々もそこまでN-BOXと差が付くような作り方をしたつもりもないですけど、ただ事実、数値としてああいう風に表れてくるわけです。
小沢 結局、N-WGNは「N-BOXとその仲間達」みたいに見えてしまっていたんですよね。サザンオールスターズではなく「桑田佳祐とその仲間達」みたいな。
古館 そうかもしれません(笑)。我々は「Nシリーズ」というブランドを築こうとしていたのだけど、世の中はN-BOXっていうブランドができてしまっていた。
小沢 そこに関しては、少し外したわけですね。
古館 (笑)。
▲新型N-WGN発表会で標準車の横に立つ古館氏 超激戦区である軽ワゴンマーケットにどう応えるのか ついに真相を語りだす
●2代目N-WGNを勝利に導く新たな法則とは?
小沢 では、2代目N-WGNを成功に導くための、新たな勝利の法則とはなんでしょう?
古館 まず今回はほかとの競争はしてないです。デザインも含めてハスラーに負けないようにとか、ワゴンRに負けないようにとかはしてないです。
それ以上にお客様の言葉に対してどう反応していこうか、お客様の普段の生活にどう反応していこうか、そこに集中しています。
▲標準車は丸形ヘッドライト採用 ポジションランプをどこに配置するかさまざまな検討を行ったが結果としてヘッドライト上部に決定 人の顔のように見えてなじみやすい
小沢 つまりライバルを見ない戦略?
古館 競合を全く見ないわけじゃないですけど、それ以上にお客様を見つめて作りました。まず作り込んだのはデザイン。可愛いだけじゃなく、タイムレス、シンプルをキーワードに長く乗れるカタチを作り込みました。
小沢 とくにワイルドなカスタムに驚きました。丸目のノーマル顔に対して、角目で確かにボクシーだけど、全く毒っけがない!
▲カスタムはLEDを9個並べた角形ヘッドライト採用 従来の派手な威圧感のある雰囲気とはまったく異なる路線 新たな高級感を模索する
古館 今回はシックに仰々しくなく、だけど高級感ってところを狙っています。いかにも見栄を張っているようなのはやめようと。
小沢 室内の広さはクラストップですか?
古館 もちろん新世代プラットフォームを採用していて、エンジンルームが小さく、車内が広いというのが我々の基本的アドバンテージなので。
ただ、今回はNーBOXより背が低くなり、ドライビングポジションが乗用車ライクになっているので、ステアリングに初のテレスコピック&チルトステアリング機構を標準装備しています。
▲新型N-WGNはチルト&テレスコピックステアリングを採用 さまざま体格のユーザーに対応するため調整機能を向上
▲室内長は2メートル超え 前後席ともゆとりのある広さを確保 標準車はソフトな座り心地の専用シートパッドを装備
小沢 走りはどうですか? 2年前の2代目NーBOXで導入した新設計エンジンで燃費もパワーも両取りしていると思いますが。
古館 燃費とパワーはそのとおりですが、乗り心地やハンドリングに関していうと、フィットほど走りにはふっていません。やはり軽は街ノリ中心。乗り心地を重視しています。
小沢 では、2代目N-WGNの最大のアドバンテージとは?
古館 いろいろありますが、まずはシンプルなデザインもありますし、初代はプラットホームの利点がなかなか伝わってなかったので、今回はラゲッジまわりを2段ラックモード、ローフロアモード、ビッグラゲッジモードと3つ選べるようにし、使い勝手が増しています。
▲ラゲッジは低床化 上下に区切るボードを装備してワゴンとしての使い勝手を高めた
小沢 それから先進安全のホンダ・センシングがまた進化したとか?
古館 新たに電子パーキングブレーキが付き、渋滞時の完全停止が可能になりました。
小沢 それは悔しいくらいに大きいです(笑)。というのも自分が2代目N-BOXを所有していて、ホンダ・センシングが渋滞中に完全自動停止しないのが残念で残念で。マジメに5万円ぐらいでアップデートしてほしいなぁ。
古館 すみませんが無理です。
小沢 ですか。。しかし、その点も含めて新型N-WGN、今回こそは売れそうですね。
古館 ありがとうございます。そうだと良いのですが(笑)。