※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年4月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋し一部加筆したものです
あっけない幕切れだった。ホンダと日産、そして三菱の経営統合を巡る騒動は、早くも過去の出来事となった。引き続き電動化やSDVに関する戦略的パートナーシップは模索するとはいうものの、兎にも角にもその“夢物語”は成就せずに終わった。個人的には“期待”という言葉で応援する考えであったゆえ、ご事情は多々あったのだろうが、正直いって“残念”だった。
話変わって、そんな渦中に制作してきた今月号(『CAR and DRIVER』2025年4月号)の巻頭企画のテーマは、「ニッポンのSUV」。グローバルでSUVに限らず大型化と収益性を見越した高級志向が高まる一方で、ここ日本で使いやすい、そしてトータルでのバリューが高い、日本市場で人気のSUVカテゴリーを掘り下げよう、という意図でこの企画が決まった。発表からわずか数日で受注停止となったスズキ・ジムニーノマドを筆頭に、現代のクルマ選びの一丁目一番地ともいえるこのカテゴリーを、年初のタイミングで特集せずにいられなかった。
しかし、なぜここまで人気なのか。妻の言葉を借りれば「他のクルマよりも、視線が高くて運転しやすいからじゃない?」とのこと。確かに見切りがよく、状況によっては前車の先を見通せたりするので、それは一理あるかもしれない。でも、単純に大きければいいってわけでもないはず。要は「使いやすさ」だった。ということで、これが今号の特集企画の肝である。そう、ここニッポンには、“使えるSUV”がたくさんある! ということで、内容については、本誌にてご覧いただきたい。
いきなり個人的な話になるのだが、これまでの愛車歴15台のうち、SUVは3台だった。実はどれも妻と一緒になってからのセレクトで、そのうちの1台はミニバンでもある三菱デリカD:5だ。若い頃はミニバンには絶対に乗らない、と豪語していたものだが、なぜかデリカならいい、と実に自分勝手な例外規定があったのは御愛嬌。だが結果として、妻はもちろん、自分にとってもお気に入りの1台だったのはいうまでもない。
写真は三菱デリカD:5 BLACK Edition(ブラックエディション)。価格/8SAT 473万3300円。
いずれにせよ、メーカーからみても、このカテゴリを無視するわけには行かない。なにしろ、普通乗用車でもっとも販売台数ランキングをみても、そのほとんどがミニバンかSUVである。かつて人気だったセダンやステーションワゴンはどこへやら、ある「走りの良さ」を謳うメーカー(あえてどことは言わないが)も、そのラインナップのほとんどがSUVだ。ビジネスである以上、台数が出る、あるいは利益がより出るクルマをつくり、売り出すのは当然のことである。
ここでぜひ伝えておきたいのは、もともと“クルマ好き”でも、とりわけ“運転が好き”な自分からすると、ドライブする楽しみというものは、車種・車格が違えど、実はそこまで大きくは変わらない、ということ。確かにスポーツカーとSUVを比べれば、絶対的な運動性能は大きく異なる。ただ、そのクルマなりの走らせ方というものがあるもので、そこを追求して運転に集中することで、実に楽しい時間を過ごせるのである。
実際、最近のSUVはその乗り味の多様さに驚かさられる。トヨタ・ランドクルーザー250は、ゆったりとやや大味な雰囲気を心地よく感じるし、三菱トライトンはその大柄なボディかつ本格クロカン4WDでありながら、驚くほど取り回しが容易だ。マツダCX-60にいたっては、目を瞑って(実際はできないが……)運転したとすれば、もはやスポーツカーだといっても違和感ない。ちなみに、個人的に最近感動したのは、スズキ・フロンクス(のFFモデル)。走りも居住性も、このクラスの中では、コストパフォーマンスが抜群だ。
しかし、クルマ選びというものは、その出来の良し悪しだけでは決まらないもの。見た目、使い勝手、価格、そして家族の同意……。そう、どれもが主観的基準で決まることだらけ。だからこそ、ぜひ皆さんもたくさん乗って比較して、自分なりのお気に入りを見つけてほしい。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。ITコンサルティング会社でシステム開発、自動車Webメディア編集部等を経て、企業の戦略立案・事業開発・マーケティング支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員