※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年5月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋し一部加筆したものです
ブランドの強さを示す構成要素は、ロイヤリティ(信頼)、アウェアネス(認知)、イメージ(印象)、この3つが一般的である。そのどれもが高次元で確立されているブランドのひとつであるポルシェは、イタリア発のそれらとはまた異なる魅力を持っている。その中でも、ポルシェには“一貫性”というキーワードが真っ先に連想されると私は思う。
それはとりわけ911についてなのだが、水平対向エンジン、5連メーター、RRレイアウト、そして特徴的なフロントフェイス。クルマに詳しくない人でも、ひと目見ればあれはポルシェでしょ、とたいていの人が答えられる。
ここ数年、電動化にまつわる話題は多くのクルマ好きにとっては、何やら不穏な未来のようなテーマとして語られてきた。しかし、2019年にポルシェ・タイカンがデビューし、2020年に日本市場にも投入されると、当初は眉をひそめながら眺めていたクルマ好きたちは、ひとたび試乗してその圧倒的な動力性能について体感すれば、これは面白い、ちゃんとポルシェだ、と口を揃える。
ポルシェに対する期待値、といってもいい“信頼感”を損なわず、同じくイメージどおりの存在であり続けている。これぞ、ポルシェの強さだと思う。
当のポルシェは2024年7月に、「2030年には80%をフル電動化することが可能になる」と述べ、多くのクルマ好きたちは「あのポルシェも電動化か……」と嘆いていたが、つい先日、3月12日に発表された決算ステートメントではこの80%という数値がなくなり、「今後数年間で製品ポートフォリオを拡大し、内燃エンジンとプラグインハイブリッドのパワートレーンを搭載したモデルを追加していく」とし、電動化への移行が世界的に長期化する見通しを踏まえた発言となっていた。
誤解なきように申し上げると、そもそも電動化は決して悪い話ではないし、ポルシェはあくまでもビジネスとして、世情に合わせた製品戦略を考えた結果でしかない、と捉えるのが正しいと思う。
そもそも今回、『CAR and DRIVER』(2025年5月号)の巻頭企画を『ポルシェの実力』としたのは、その高さ・低さを評価する狙いではなく、あくでも“今”をつまびらかにして、ここしばらく続けている「あらためて知る」をテーマとしたものだった。
この特集取材のなかで、とりわけポルシェジャパン広報部長である黒岩氏のインタビューは興味深かった。内容は誌面を見ていただくとして、個人的に感じたのは彼の広報(≒パブリックリレーションズ)に対するプロフェッショナリズムだ。ポルシェはもともと強いブランドであるのは疑いようがない。しかし、それをさらに押し上げる、あるいはそうあり続けるために、すべてのステークホルダーとの関係性構築とメンテナンスに情熱を注いでいることがとても伝わってきた。
私自身、かつて勤めていたマーケティング支援会社で、パブリックリレーションズ(PR)のプロたちと共に仕事をさせていただく機会は数多くあった。だが、その多くは商品プロモーションの一環として行われるアクティビティがほとんどであり、何年ものスパンで本質的な活動が行われるプロジェクトに関われることはそうそうなかった。
その点、ポルシェジャパンでは、千葉県ならびに木更津市と連携したポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC Tokyo)の開設・運営による地域活性化をはじめとして、東京大学先端科学技術研究センターとの独自教育プログラム「LEARN with Porsche」を支援するなど、複数年にかけたCSR活動にも積極的に取り組んでいる。
いずれも、ポルシェの創業者であるフェリー・ポルシェが語ったとされる「自らの夢をビジネスにすることができた幸運な人々は、夢を追いかける人々をサポートする義務がある」という言葉の世界観を、これらの活動を通して体現させている取り組みだといえるだろう。
そして、これらの取り組みに尽力してきた黒岩氏に、いまのポルシェの強さの本質はどこにあると思うか尋ねると、あくまでも私見、という前置きのうえでこう答えてくれた。
「三つの要素があると思います。一つ目は、スポーツカーメーカーとしてのこだわりと職人精神。二つ目は、レース活動で培った高い知的能力。三つ目は、アメリカ市場で培われたグローバルブランドとしての特性です。とくに、考え抜く文化と、自分たちで作るという哲学が、このブランドの強さを支えていると思います」。
そう、まさにこれが、今回の特集を通じて、一番私が知りたかったこと。ポルシェの今(≒実力)は、これらを徹底的に追求することで具現化されているのだ、とストンと腑に落ちる思いがした。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。ITコンサルティング会社でシステム開発、自動車Webメディア編集部等を経て、企業の戦略立案・事業開発・マーケティング支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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