【九島辰也のカーガイ探訪記】国内3社の提携話をキッカケに海外四半世紀を振り返ってみると(2025年3月号)

国内3社の提携話をキッカケに海外四半世紀を振り返ってみると

 年初からの自動車業界の話題は、ホンダと日産の業務提携だった。筆頭株主の日産の動きにつられて三菱自動車まで巻き込んでの騒動だ。ただ、かつてのいわゆる「合併」みたいなものではなく、ホールディングスを備えたうえでの業務の効率化という話。

 なので、そうなっても各々のブランドが保たれるのは間違いない。プラットフォームが共有されても両者の味は継続されることだろう。

 なんてニュースを聞いていると、20世紀末のビッグバンを思い出す。自動車業界の再編成だ。各社「数の論理」のもと、アライアンスを組んで来るべき21世紀に備えようと考えた。結果、いろんなグループが誕生したのだから興味深い。

 中でもモンスター級に膨らんだのはフォード・グループだろう。とくにPAGと総称された「プレミアム・オートモーティブ・グループ」はそうそうたるブランドが連なった。ボルボ、ジャガー、レンジローバー、アストンマーティン云々だ。云々とは、リンカーンやマーキュリーを指す。

 フォードのおひざ元となる北米国際自動車ショー(デトロイト・ショー、NAIAS)では巨大なブースを構えていたのを覚えている。会場の一角を占拠するカタチで彼らが陣取っていた。そのときのフォードを表現するなら、まさに「覇者」である。

 個人的に印象的だったのは、ダイムラー・ベンツ社とクライスラー社の合併だ。1998年11月に行われたそれは衝撃的だった。質実剛健の雄と自由な発想を得意とするアメリカ第三のメーカーが一緒になったのだから驚かないわけがない。

 正直「大丈夫?」って感じ。それにメーカーからのメッセージも強かった。NAIASのダッジ・ブースに立ったメルセデス・ベンツのCEOディーター・ツェッチェ氏はカウボーイスタイルだった。あの見るからに学者肌で普段から白衣を着ていそうな人物が陽気なカウボーイを演じたのである。

 ちなみに、当時のクライスラーはダッジとプリムス、それとジープと、3ブランドを持っていた。その中でダッジが一番やんちゃなイメージだったのはいわずもがな。8リッター・V10でデビューした現代版アメリカンマッスルカー、バイパーを知らない者はいなかったはずだ。

 ヨーロッパではフィアットの動きが激しかった。印象的なのはその傘下にあるフェラーリが、同門入り(1993年)したマセラティをコントロール下に置いた(1997年)こと。1998年登場のクアトロポルテ・エヴォルツィオーネがその第1弾で、その後はF430のV8エンジンを積むようになった。

 で、何が衝撃的だったかというと、それは両者の歴史。というのも彼らはグランプリレース時代からのライバルで、公道レースのミッレミリアでも鎬を削ってきた間柄だ。というか、エンツォ・フェラーリにとってはアルファロメオのワークスだったスクーデリア・フェラーリ時代からの宿敵。

 その2つのブランドが同門となり、片方が片方からパーツを供給してもらうなんてことは誰も予想していなかっただろう。1914年からの長い歴史を持つマセラティにとっては複雑な思いだったに違いないし、両者の歴史を知るわれわれも複雑な感情を得た。

 なんて足跡を振り返ると、冒頭に記したホンダと日産のアライアンス話はそれほど特別ではないかもしれない。やってみてダメなら、ダイムラーとクライスラーがそうだったように離れればいい。ご存じのようにクライスラーは現在ステランティス・ グループで元気にやっている。

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