資料集めと現車取材が重要/大内誠さんの代表作・好きな作品

友人が保管していたロータス38

作品1/ロータス38。サイズ:縦×横325×420mm

 

*テクニカルイラストレーション、透視図は、謎を解明する楽しさがありますね。即座に杉田玄白、前野良沢の『解体新書』(1774年刊、原本『ターヘル・アナトミア』)を思い出しました。

■ありがとうございます。透視図は、鑑賞者にモノの構造をわかりやすく美的に伝え、かつ幾何学的な手法で平面に描き出します。ボクはドイツで修行しましたが、『ターヘル・アナトミア』(1772年初版)はドイツ医師、ヨーハン・アーダム・クルムスの著作です。何か、共通する思想がありますね。

*ご紹介の作品はテクニカルイラストレーションによる1960年代のレーシングカーと軽自動車です。

■作品(1)のロータス38は、1965年にロータスがインディ500の優勝を目指して作った専用マシンで、その年のインディで優勝しました。それで伝統のように強かったオッフィーエンジン(オッフェンハウザー・エンジン)を蹴散らして、フォードDOHCエンジンで優勝しました。そのスピードも驚きでしたが、ロータスの作りのよさがとても魅力的でした。

 ジム・クラーク選手(1936〜68年)は、このマシンを1966年の日本インディにも持ち込みました。カラーリングは赤白の19番。でも予選でエンジンが故障して本戦は走れずじまいでした。

 そのマシンを友人が購入して、長い間、倉庫に保管していました。何年か前に取材をさせてもらい、2019年に描き上げました、そのときは伝統のロータスグリーンにイエローストライプ、ゼッケンはインディ優勝時の82でした。

  その後、マシンは、ロータス・カーズ設立者でデザイナーのコーリン・チャップマン(1928〜82年)のご長男、クライブ氏の元に戻り、赤白の19番に戻されて、2019年にはいろいろなイベントに出展されました。

 今回参考にした資料は、米国ペブルビーチでの実車取材と、偶然見つけたフォードDOHC32Vエンジン専門マニュアルです。この資料は、エンジンの断面図などが乗っていたのでうれしかった。

エンジンの魅力を伝えたい

作品2/マツダ・キャロル。サイズ:縦×横173×250mm

 

*作品(2)は?

■1962年のマツダ・キャロルは、当時、画期的な高級軽自動車でした。まだまだ庶民にはマイカー意識が少ない時代、このような自動車があったことを思い起こしていただくために描きました。

 作品を描こうと思った最大の理由は、エンジンです。キャロルの前にB360という軽トラックに積まれました。ホンダもトラックから始まったのですが、ホンダがDOHCだったのに対して、マツダはOHVのクロスフロー。つまり、クライスラー的な表現をすれば、HEMIエンジンだったのです。世界一小さいHEMIでした。

 エクステリアデザインは、東洋工業時代の小杉二郎(1951〜81年)さんで、リアウィンドウのクリフカットが最大の特徴です。いま見てもデザイン力は衰えていないです。

*現在はデジタルで描画されていますが、初期のころは手描きですよね。

■そうです。ボクの初めての仕事は、1969年、スバル360ヤングSSでした。
 ヤマハは1971年のYAMAHAテクニカルイラストカレンダーが最初の仕事で、スズキ・フロンテクーペをマル秘の中で取材した経験もあります。

 フロンテクーペのときは、1カ月半、浜松市鴨江の旅館でカタログ用のテクニカルイラストを制作しました。そのころのボクは彩色をしていなかったので、色を入れるエアブラシ隊が2名いて、東京からエアブラシとコンプレッサーを運び込んで無事完成させることができました。

 

おおうち・まこと/1949年、茨城県生まれ。法政大学工学部卒業後、モータージャーナリスト・星島浩氏に師事する。1979年にドイツ・ミュンヘン在住のイラストレーター、H.シュレンツイッヒ氏のもとで透視図(テクニカルイラスト)の描き方を学ぶ。1年半にわたるイラスト留学を終えて帰国。以降、自動車メーカーや雑誌に多くの作品を提供している。正確で緻密な表現に定評がある。AAF会員

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