発掘名車:流麗スタイル、優雅な産業・技術遺産

1958年式 メルセデス・ベンツ190SL

190SL-01.JPG1958年式メルセデス・ベンツ190SL メーカーが「トゥーレンシュポルト(ツーリングスポーツ)」と表現したGT感覚の走りが評判を呼び主にアメリカ市場で人気を博した

プロフィール:「ガルウイングSL」の弟分。現代のSLのルーツ

 メルセデス・ベンツ190SLは、1984年2月のニューヨーク・ショーでプロトタイプがデビュー。55年から62年まで販売されたFRオープン2シーターである。メカニズムは、ミディアムセダン180(現在のEクラスの前身)をベースにしていた。車名の190は、1.9リッターの直4ユニット(105㎰)搭載に由来する。

 190SLのフロントマスクデザインは、300SLのイメージが漂う。ボディサイズは全長×全幅×全高42904290×1740×1320mm。2400mmのホイールベースは300SLと共通。走りのキャラクターは、現在のSLクラスに通じるGT感覚。MGやトライアンフなど当時の英国製オープンスポーツのスパルタンな乗り味に対し、190SLは異色だった。

 しなやかな乗り心地と高速安定性を重視し、160㎞/hで安心して巡航できるように設計されていた。足回りはフロントがダブルウィッシュボーン、リアはスイングアクスルの4輪独立タイプ。ブレーキは4輪ドラム式で、トランスミッションは4速マニュアルを組み合わせる。セミモノコック構造のボディは、ドアとボンネット、トランクリッドが軽量なアルミ製。

 190SLLは、4126ドル(300SLSLは7564ドル)という価格設定も功を奏し、米国市場を中心に大ヒットした。190SLは1962年に生産を終了するまで計2万5577台が販売された(300SLは計3232台)。19SLは、新車時には日本に輸入された形跡がない。ほとんどの190SLLは、近年になって日本に上陸した並行輸入車である。

190SL-02.JPGパワーユニットはツインキャブ仕様の1.9リッター(105㎰) トップスピードは180㎞/h 190SL1962年まで25577台が販売された後「パゴダルーフ」の230SLにバトンタッチした

インプレッション:速度が上昇するほど走りが冴える

 紹介するモデルは、前後ホイールアーチの上部にクロームの飾りが装着された後期型。2012年に米国から輸入された左ハンドル仕様である。

 ボディのコンディションは上々だ。目立つ傷やサビはなく、ブルーの塗装には艶がある。バンパーやグリルなどのクロームパーツもくすみは見られなかった。厚手のキャンバス地の幌は張り替え済み。ビニール製のリアウィンドウはきれいな状態を維持している。幌の開閉操作は手動式。ホイールはキャップ付きスチール製。タイヤは8分山、BS製を装着している。本来、ホイールキャップは一部がボディ同色になるが、写真の190SLはクローム仕上げだった。

 室内各部は丁寧に作り込まれ、ドア開閉音は重厚。シート/ドアトリム/インパネ上部は、日本でクリーム色の本革仕様に張り替え済み。フロアマットも同色の特注品を装備していた。シートに汚れはなく座り心地はソフト。VDO製メーターや各種スイッチは正常に作動していた。オーディオの懐かしいデザインはドイツのブラウクンプト社製。室内空間は広く、荷物収納スペースは余裕がある。

 走りはしっかりしている。1.9リッターの直4ユニットは最近、専門ショップでキャブレターをオーバーホール済みで、吹き上がりはスムーズ。エンジンは、回転が上昇するほどバラつきがなくなり、静かになる。発進加速はマイルドだが、スピードに乗るとかなり速い。乗り心地は良好。足回りはたっぷりとしたストロークがあり、路面の凹凸をスムーズにいなす。ノンパワーのステアリングの操舵力はさほど重くなく、直進安定性は優秀だ。

 左右のウィンドウを閉めておけば、オープン時でも風の巻き込みは適度だった。

190SL-03.JPG室内は豪華 エアコン/パワーステ未装備 大径ステアリングの操舵力はさほど重くない ルームミラーはインパネ上に配置 オープン走行時の風の巻き込みは適度

190SL-04.JPG速度計は210㎞/h 回転計は7000rpmまで表示 速度/回転計の下に油圧/水温/燃料計がある

※次ページにスペックを掲載

1958年式 メルセデス・ベンツ190SL主要諸元

190SL-05.JPGフロントグリル内の"スリーポインテッドスター"配置は190SL300SLがルーツ 幌は厚手のキャンバス地で仕上げ 開閉は手動式

[新車時の車両データ]
全長×全幅×全高=4290×1740×1320mm
ホイールベース=2400mm
車重=1160
エンジン=1897cc水冷直列4OHC
最高出力=105pc/5700rpm
最大トルク=14.5m3200rpm
トランスミッション=4MT
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:スイングアクスル
ブレーキ=前後ドラム
タイヤ&ホイール=6.40-13+スチール
駆動方式=FR
乗車定員=2
※スペックは編集部調べ

190SL-06.jpgノンリクライニング式シートの座り心地はソフト 内装は日本でクリーム色の本革仕様に張り替えられた

190SL-07.JPG1.9リッターユニットのエンジンヘッドはアルミ製 ソレックス製キャブレターを2連装する

190SL-08.JPG丸型ヘッドランプとウインカーの組み合わせ 300SLと共通のイメージ

※取材協力:JMMカーズ

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