水彩着色の繊細なタッチが魅力的な「水彩飛行機画」を得意とするイラストレーター、安田雅章さん。
1903年、アメリカのライト兄弟による世界初の有人動力飛行成功をうけて、1910〜40年代は、世界的に有名なパイロットが活躍した時代です。第1次世界大戦中、ドイツ陸軍の「レッド・バロン」と呼ばれたリヒトホーフェン男爵
(1892-1918年)、大西洋単独無着陸飛行に成功したチャールズ・リンドバーグ(1902-74年)、名作『星の王子さま』の著者でもあるサン=テグジュペリ(1900-44年)など──。アニメ映画『紅の豚』『風立ちぬ』など飛行機好きで知られる宮崎駿監督は、かつてドキュメンタリー番組で「サン=テグジュペリにいちばん影響を受けた」と語っていました。
1910年代の複葉機は、木造の骨組みに布張りという機体が多かったといわれます。パイロットは、木のきしみ、布のたわみなど機体の状態に気を配りながら、五感を総動員して操縦していたと思います。機械と人間のアンサンブルが飛行を可能にしていました。一瞬でもコントロールが乱れれば、命の危険に直結します。当時のパイロットたちの感覚を想像すると、小心者のボクはとても耐えられませんが、だからこそ飛行機に憧れるのだと思います。
作品は、2年前、オリジナルカレンダー用に制作しました。
作品①は、OS2U キングフィッシャー海上偵察機(米・1940年)です。愛称は「カワセミ」でした。艦載機として海上偵察救難任務に活躍しました。機体のサビが勲章といった感じです。
作品②は、1910年代初頭のオリジナル手製機です。当時、多くの人々の工夫によってさまざまな飛行機が作られ、その一握りの人々によって有名な航空機メーカーが生まれ、発展しました。アメリカのボーイングやロッキード(・マーティン)など、前身をたどると1910年代までさかのぼります。
作品③は、フォッカーD-Ⅶ(独)です。重量はありますが、頑丈な設計の機体(翼間に張り線がない)と強力なパワーで、当時のドイツの最優秀戦闘機として信頼が寄せられました。初飛行は1918年です。
作品④は、ブリストルF2-B(英・1916年)。イングランドの空に一番似合う複葉複座の戦闘偵察機です。
作品制作は、水彩紙に8B鉛筆で、濃淡、かすれ、パース感などを意識しながらラインを描き起こしました。
着色は、水彩着色した別紙をスキャンしてデジタル仕上げしましたが、デジタルの質感を出さないように注意しました。以前は、直接水彩着色をしていましたが、デジタルの便利さと可能性を見ると手放すわけにはいきません。
ボクは幼いころから飛行機が大好きで、物心ついたころには飛行機の絵ばかりを描き、飛行機のプラ模型ばかり作っていました。なぜ飛行機が好きなのか、きっかけの記憶は定かでなく、その理由を探るため描き続けている気がします。
2020年から、羽田空港の着陸ルートが変更になり(南風時)、わが家の上空(約1000m)を通過するようになりました。目視でも旅客機のディテールが確認できるので、外に出て興奮しながら見ています。また、近くの入間基地から、航空祭の日は輸送航空隊のC-1などが低空飛行で通過していきます。そのたびに、なぜあの巨大な塊が空を飛べるのか?と思います。翼の働きや揚力の関係など理屈はわかっていても、目の当たりにすると不思議に思えてなりません。
6年ほど前から「昭和」をテーマに描いています。自分が見聞きし、体験した「リアルな昭和」をイラストで表現できたらなぁと、記憶をたどり資料を集めています。
「昭和」も、近年は若い人にとって新鮮な素材として受け入られているようです。「昭和はシンプルで生きやすかった時代」という人もいますが、実は人間関係がややこしい時代で、それが息苦しくもあり、おかしみでもある。クルマのデザインを見ても、柔らかい曲線から「あぁ、「人間」が考えたラインだ」と思います。
ボクの「昭和作品」、乗り物が題材でもつねに人との関係を描いています。今年10月に開催予定のAAF作品展でご覧ください。