オートバイを中心に、鉛筆画の手法を活かした作品を発表しているイラストレーター、大塚克さん。作品の細部の描写に目を凝らすと、驚きの描き込みです。絵画には、写真をもとに写実に徹して描写するスーパーリアリズム、フォトリアリズムという手法があり、1980年にアメリカで出版された作品集『PHOTOREALISM』には、バイクをモチーフにした作品がたくさん紹介されています。
長年バイクに乗り続ける大塚さんは、バイク好きが高じてイラストレーターを目指したのか、もともと絵がお好きでバイクをテーマに選んだのか。“ニワトリが先か、卵が先か”のような問いかけをしてみました。
ボクは、もともと絵が好きで、オートバイは後からです(笑)。若い頃は、アニメの可愛いキャラクターのようなタッチの絵を描いていました。学生時代の友人は、いまだにボクの作品といえば可愛いイメージを持っているようです。バイクの絵を描くようになったのは、イラストの仕事をするようになって、担当編集者の「実際のライダーだからオートバイの絵も描けるはずだ」という言葉がきっかけです。いまはあの無茶振りに感謝しています。
ボクがバイクを好きになった小学生の当時から憧れていたのはHonda CB750 FOUR や Kawasaki Z1(900 Super4)で、Z1は現在の愛車でもあります。古いオートバイに乗り続けていますが、大量生産のロボット化が発展途中だった1980年代以前のものは、エンジンが砂型の鋳物だったり、マフラーが職人の溶接であったりと、造形に温かみがありその質感がとくに好きです。実際にバイクに乗るようになった20代のころ、オートバイ全盛期の1980年代のマシンは、ボクの好きな機種のベーシックラインです。この時代の国産市販車は2輪、4輪ともに好きです。
作品『1』はSuzuki GSX-RR 2022です。スズキのロードレースは、1960年に参戦したイギリス“マン島TTレース”(1907年〜)から始まり、2022年シーズンを最後にMotoGPから撤退しました。最終戦のバレンシアGPは、アレックス・リンス選手が見事に優勝して有終の美を飾りました。
作品『2』は、OKI HONDA Racing team RVF750 1990です。バブル全盛期の1990年鈴鹿8時間耐久レースで、圧倒的な予選タイムを出しながら決勝101周目でガス欠リタイアとなった、ワイン・ガードナー選手、マイケル・ドゥーハン選手が乗った耐久レースマシンです。
作品のポイントは鉛筆のタッチで、ルーペを使って細かく描写したり、または荒く線を走らせ、練りゴムで擦ったりして、モチーフに合わせてオートバイの持つ勢いや、存在感を強調するようにします。ボクがバイクに乗っているときにいつも感じる高揚感が表現できたらいいと思っています。鉛筆と紙には適度な湿度が大切で、ボクが作品を描く最適な湿度は40%です。
2作品とも、オートバイレース専門誌『RACERS』(2009年創刊)の表紙として描きました。
作品は、アングルと色の対比の相性で選んだ2点です。赤いHonda RVF750が登場したのは、誰もが物質的な豊かさを目指している時代でした。青いSuzuki GSX-RRは長く続く経済停滞の中でパンデミックが起こり、レースから日本企業が撤退していく時代のマシンです。そう考えたとき、これからの将来、何をすべきか、イラストを通じてオートバイの魅力をどのように発信していくか、新たな課題は尽きません。
ボクにとってオートバイの魅力は何といっても高揚感で、走り出した瞬間、必ずテンションが上がります。オートバイをモチーフに作品を制作していると、その記憶が蘇り、描き終わると満足感が得られます。この高揚感、満足感、五感に刻まれた疾走感の記憶が、長年ライダーとイラストレーターを続けている理由です。
おおつかまさる/1960年生まれ。多摩美術大学美術学部デザイン科卒業。外資系広告代理店を経て、1995年からイラストレーターとして独立。2009年からバイク雑誌やモータースポーツ雑誌の表紙イラストを担当。AAF(オートモビル・アート連盟)会員。千葉県市川市在住。ホームページ:nanapi.net
インタビュアー/山内トモコ