江戸時代の庶民文化の中心、東京の下町、隅田川界隈をウォッチングしながら作品を生み出している山﨑満さん。風景は変わっても、今日まで続く下町の人々の人情、世話好きでおせっかいな気質が魅力と語ります。山﨑さんが描き出す現代の下町東京の情景には、そんな人々の暮らしや息づかいを感じます。
作品1『駒形橋』は、ボクのテーマのひとつである「下町東京」の情景です。以前から隅田川を行き来するタグボートに興味を持っていました。自らの船体より何倍も大きなタンカーや何十トンもの砂利や物資を積載した貨物船を、人間の歩行と同じぐらいの速度でゆっくりゆっくり引っ張る姿を見ると、力強さに感動すら覚えます。
その勇壮な姿をいつか作品にしたいと思っていました。制作期間は約3週間、船の資料は自分で写真撮影して事前に準備していました。構図は左端に駒形橋を配置し、ポイントは光と川の表情です。たゆたうような起伏のある川の情景、太陽の光をたっぷり受けながらゆっくり水を切って進むタグボート、水面に映る影や映り込み、反射する光などを重点に描きました。
作品2『蔵前一丁目交差点』も「下町東京」がテーマです。題名の蔵前一丁目交差点は、江戸通りと蔵前橋通りの交差点です。ボクのアトリエから約1分で、蔵前警察署がすぐ近くにあります。この作品の時間帯は秋の午後4時ごろで、白バイ隊員がこの時間に交通取り締まりをする場所です。西日の反射がいろいろな角度からビルやクルマ、路面に光を映し、ちょうど光の反射を受けたマンホールの脇で周囲の車両を注意深く監視している白バイ隊員の後ろ姿に興味が湧き、作品にしました。
ボクは約半世紀にわたり、東京下町文化の「鳶」の方々をライフワークとして描いています。描き始めた当初は、ほとんどの作品が「後ろ姿」でした。あるがままの自然体で粋に半纏を着こなし、とくに年老いた組頭の哀愁を漂わせる後ろ姿に惹かれました。この白バイ隊員も、違反する車両や、安全を注意深く見守りながら悠然と監視する後ろ姿にこだわりました。
また、この白バイのナンバープレートは実在する番号なので、蔵前警察署で了解を得ました。今後も白バイ隊員を描いていいかたずねたところ、快諾していただきうれしかったです。このテーマは、今後も描き続けたいと思います。
作品3『elf motor oil』は、オイル交換が終了した自動車修理工場の情景です。クルマは、ボクが所有するルノー・クリオV6です。
このブルーのルノー・クリオV6は総生産台数が300台、そのうち2台が日本に輸入されたそうで、その1台がボクのクルマです。クリオV6はとてもセクシーなスタイルをしています。とくに左右に張り出た後ろ姿はグラマラスな女性のヒップを連想させ、ボクがもっとも惹かれるところです。
ルノーはなんと美しく艶めかしいクルマを作るんだろうと、いつも思ってしまいます。
この作品は背景との兼ね合いを考え、後ろ姿よりもフロントのほうが説得力があると思い、斜め前からのシーンを選びました。薄暗い工場の中に浮かび上がるブルーのクリオV6、車体の側面に映り込む景色、リフトジャッキのプレス、ひび割れた床、右側にビニールで覆われたルノー・サンク・ターボ、数々のダンボール、店主の物と思われる自転車、左側にツールケース、タイヤホイール、壁の配電盤やコード類、elf motor oil のポスター……。
そんな自分が見たままの情景を作品にしました。
今後もクルマやバイクなどを、ボクがテーマにしている「下町東京」に組み入れ、制作活動を続けて行きたいと思います。
やまざきみつる/1950年、東京都港区出身。桑沢デザイン研究所を中退し、1971年に渡仏、パリに滞在。デザインおよび絵画制作に取り組む。また、10代のころ、浅草の三社祭で神輿を担ぎ、半纏を着た鳶の組頭に興味を持つ。それ以来半世紀、鳶の方々を描き続ける。2017年、“研ぎ陣”合羽橋店/満ギャラリーオープン。AAF オートモビル・アート連盟会員。東京都在住
やまうちともこ/TOKYO-FMパーソナリティを20年以上つとめ、インタビューした人1000名以上。映画評論家・品田雄吉門下生。ライター&エディター