【岡崎宏司カーズCARS/CD名車100選】ジウジアーロがデザインした至宝。1979年いすゞ117クーペ(E-PA96型)は、新鮮な魅力を放つロングライフカーの代表だった!

117クーペは1966年春のジュネーブ・ショーでプロトタイプがデビュー。デザインを手掛けたのは若き日のG・ジウジアーロ。紹介する1980年モデルは☆☆(ツースター)シリーズと呼ばれる最終型。主要ガソリンエンジンを2リッターに拡大するとともに、いすゞ得意の2.2リッターディーゼルをラインアップ。“ジウジアーロ・カスタム”という特別グレードも話題を呼んだ

117クーペは1966年春のジュネーブ・ショーでプロトタイプがデビュー。デザインを手掛けたのは若き日のG・ジウジアーロ。紹介する1980年モデルは☆☆(ツースター)シリーズと呼ばれる最終型。主要ガソリンエンジンを2リッターに拡大するとともに、いすゞ得意の2.2リッターディーゼルをラインアップ。「ジウジアーロ・カスタム」という特別グレードも話題を呼んだ

1979年モデルは新開発2リッターDOHCでリフレッシュ

 117クーペが初めてその姿を見せたのは1966年春のジュネーブ・ショーだから、すでに13年という長い時間が経過している。しかし「ひと昔」以上の年月が過ぎ去った現在でも、流麗なスタイリングは十分に魅力的だ。スタイリングは当時カロッツェリア・ギアに在籍していたジウジアーロが手掛けている。

 いすゞは長い間、そのオリジナルデザインを守ってきたが、1977年11月、ついに大幅なフェイスリフトが行われた。ヘッドランプは角形4灯式になり、フロントにエアダムを追加するなど、一気に若返りを図った。同時にインテリア、機能面の大幅な現代化が図られた。
 そして1978年12月、53年排出ガス規制をクリアすると同時に、エンジンキャパシティは2リッターに上げられ、さらに足回り、装備関係などにも手が加えられた。試乗車はDOHC+ECGIエンジンを積んだXG。「高性能を安価に手に入れたい」というユーザーのためのモデルで、価格は202万2000円だ。

リア

 新開発のG200型4気筒DOHC+ECGIエンジンの実力は高い。そのダイナミックなパワーは、53年規制車のものとは思えない。
 タコメーターのイエローゾーンは6500rpmから始まるが、いささかの気難しさもためらいも見せず、一気に吹き上がる。加速性は当然ハイレベルで、国産車の中では文句なくトップレベルにある。その小気味のいい吹き上がり、強力なパンチ力は、世界一厳しい排気ガス規制の存在などまるで忘れさせてくれる。

 このエンジンは低回転域でも優れた実力を発揮する。定速走行なら5速ギアは30km/hのスピードにも耐えるし、40km/hのスピードは十分守備範囲に入る。そして50km/hになれば、文句なくシャープなレスポンスを示す。つまり、リラックスして走りたいときは、実用車にも勝る低速性を示し、いったんその気になったときにはサラブレットの切れ味を見せつける。

 SOHC+ECGIエンジンにも乗ってみたが、これまた実力の高さは一級品だ。トップエンドのパワーと、ごく低回転域のトルクはさすがにDOHCに及ばないが、SOHCの2リッターとして、現在の国産車の中では最強だろう。とくにDOHCエンジンがほしいということでもなければ、スポーツユーザーでもこのSOHC+ECGIで十分満足できるはずだ。

室内

 117クーペのリアサスペンションは、半楕円リーフ・スプリングでリジッドアクスルを吊るという、現在ではいささか古典的とも感じられるメカニズムだ。とはいえチューニングのレベルは高く、操安性と乗り心地の妥協点は非常に高い。

 ステアリング特性はやや強めのアンダーだが、コーナリングスピードに対しスムーズにその度合いを増していく。その特性は安心感があり、安全性も高い。テールの流れも穏やかで、突然パニック状態に叩き込まれる心配はない。乗り心地も悪くない。大きな不整に対して少し荒さはあるが、スチールラジアルをよく消化している。操安性との兼ね合いから考えると、リーフリジッド式リアサスペンションとしては、最高に近い乗り心地を備えていると評価できる。

ジウジアーロ

 キャビンはフル4シーターとまではいかないが、それに近いスペース/居住性を実現している。平均的な体格の大人が前後に乗った場合、後席のパッセンジャーのひざ元にはわずかだが余裕が残る。ヘッドクリアランスにも少し空間があった。ある程度の長距離ドライブにも使えるだけの実用性を備えた後席といっていいだろう。

 静粛性は、高価なスペシャルティカーとしては、そのレベルは高いほうではない。とくに気になったのは、2500rpm付近のコモリ音、そして4500rpmを超えるあたりからのシフトレバーのビビり音だ。

 2リッターの117クーペは素晴らしい動力性能の持ち主であり、また足回りのセッティングも進歩の跡を見せている。117クーペにはまだまだ十分な若さと魅力がある。大人のユーザーも似合うし、エレガント派にもスポーツ派にも受け入れられる性格を持っている。
※CD誌/1979年3月号掲載

いすゞ117クーペ主要諸元

モデル=1979年式/117クーペXG
新車時価格=5MT 202万2000円
全長×全幅×全高=4320×1600×1325mm
ホイールベース=2500mm
車重=1365kg
エンジン=1949cc直4 DOHC
最高出力=135ps/6200rpm
最大トルク=17.0kg・m/5000rpm
ブレーキ=前後ディスク
タイヤ&ホイール=185/70HR13+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=4名

表紙

【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員

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