コスモスポーツは、マツダ(開発時の社名は東洋工業)が社運をかけて開発したロータリーエンジン第1号車。デビューは1967年5月だった。1961年、マツダはドイツNSU社から夢のエンジンといわれたロータリーユニットの理論と使用権を取得。独自の研究をスタートする。新エンジンの開発は困難を極めた。市販車として結実するのに6年もの歳月が必要だった。
ロータリーの特徴は小型軽量と高出力。そしてスムーズな回転感である。コスモスポーツは排気量491㏄のユニットを2連装した世界初の2ローターロータリー構造。最高出力110㎰を誇った。性能は当時の2リッタークラスに匹敵し、最高速度は185km/hをマーク。カタログでは「スーパーカー」という表現を用い、レシプロエンジン搭載車と明らかに違うパフォーマンスをアピールした。スタイリングは全高が1165mmと低く、斬新だった。ラウンド形状の大型リアウィンドウは、未来感覚にあふれていた。
コスモスポーツはデビュー翌年の1968年7月に各部をリファインする。ホイールベースを150mm延長。フロントグリルを拡大して冷却性能の向上を図る。エンジンは排気量はそのままに128㎰にパワーアップした。最高速度は新たに5速トランスミッションと組み合わせて205km/hに。タイヤは155HR15サイズのラジアルが標準になった。
コスモスポーツはメーカーのイメージリーダーとしてドイツのニュルブルクリンク・サーキットで開催された84時間耐久レース「マラソン・デ・ラ・ルート」で4位に入賞するなどモータースポーツでも活躍した。累計生産台数は1176台。1972年9月に生産を終了した。
紹介するモデルは、フルレストア済みのコスモスポーツ最終型。内外装のコンディションは素晴らしい。ボディは、エンジンなどすべてのパーツを外し、サビやへこみを補修したうえで、新車時と同じ塗料で全塗装済み。曲面で構成されたフォルムは美しく、塗装にはツヤがある。バンパーなどメッキパーツの状態も素晴らしい。タイヤはブリヂストン製の新品ラジアル。ホイールには純正キャップが付く。
ジャカード柄のファブリックシートは張り替えられ、7連式メーターは正常に作動していた。テレスコピック機構付きステアリングとシフトノブはウッド製。着座位置は低く、ドライビングポジションはスポーティ。視界は全方位良好。室内はヘッドルームに余裕があり窮屈な印象はなかった。
エンジンとトランスミッションはオーバーホール済み。ロータリーユニットはモーターのように軽やかに回る。とくに3000rpmを超えてからレスポンスは印象的である。独特のビート音を奏でながらの加速は鋭い。ストロークの短い5速MTは扱いやすく、足回りはしっかりしていた。ステアリングはノンパワーアシストだが、操作力は適度でハンドリングは素直だった。ボディは剛性が高く不整路面でもきしみ音は皆無。走りの印象は、モダンですべてのレベルが高い。ただし、ブレーキの利きはややマイルドである。
最近、コスモスポーツは海外でも人気が高まっている。それはロータリーエンジンを搭載した先進性と、その優れた走りが正当に評価されるようになったからに違いない。トヨタ2000GTと並ぶ、日本の至宝である。