丁寧な資料調べから生まれる詳細な表現/大西將美さんの代表作・好きな作品

ミリタリーを中心としたイラストを数多く手がける大西將美さん。細部まで緻密に描く作品には、車両、装備、開発・運用の経緯、歴史的背景など、正しく伝えるための資料調べが欠かせないそうです。

戦車2題と、ヨーロッパ戦線の軍用自転車

作品1

 仕事の依頼があるとまず資料を集めて細かい部分まで調べることに多くの時間を使います。下絵の段階で疑問があれば何度も依頼者に連絡を取り、間違いがないように心がけます。

 使用するのはイラストボードとアクリル絵の具です。アクリルは乾くのが比較的早く、“絵の具が泣かない”(垂れない)ので、細部を描くボクのスタイルではとても使い勝手がいいです。

 作品1は、第2次世界大戦中にアメリカ軍が使用したM10駆逐戦車です。ヨーロッパに上陸して数カ月を経た車両が、冬を迎えてもなお戦闘を続けているイメージで、歴戦を戦い抜いたベテランの風情を表現しました。このイラストは、背景を描かないホワイトパッケージの作品です。プラモデルのボックスアートは、キットを作るときの参考になる役割もあります。車体が大きく破損した状態やキャタピラなどの足回りに泥や雪がつく表現は、パーツの形状が分からなくなるので避けるようにしています。

 M10駆逐戦車は、M4シャーマン中戦車を基に開発され、軽量で機動力に優れており、ディーゼルエンジンを搭載して最高速度は約48㎞/h。3インチ76.2mmM7戦車砲は、徹甲弾(AP)や高爆発弾(HE)などが使用可能で、最大射程は約2500m。戦場での迅速な移動と高い発射速度により、 敵戦車に対して効果的な戦力でした。軽量のM10は装甲が比較的薄く、前面装甲は38mm、側面装甲は25.4mmと、防御力には限界がありました。砲塔のオープントップの設計は軽量化とともに視界を広げる利点がありましたが、上方からの攻撃に対して脆弱という一面もありました。

作品2

 作品2は、シリア内戦の市街地を行くT-72AV 戦車です。ミサイルや空爆で破壊された廃墟の街を策敵し、さらに砲撃をしようとするシーンを描きました。シリア内戦は、2011年、シリアで起きたアラブの春をきっかけに、シリア政府軍と反体制派の衝突から始まった内戦で、混沌とした戦況が現在も続いています。

 T-72AVは、シリア政府軍を支援するロシアより供与されました。ソ連時代のT-72Aの改良型で、車体と砲塔の周囲にブロック状の爆発反応装甲(ERA)が追加され、成形炸薬弾(HEAT)や徹甲弾(APFSDS)に対する防御力が向上しました。125mm滑腔砲2A46Mは、装甲貫通弾や成形炸薬弾など多様な弾薬が使用可能。最大射程は約3500mで遠距離攻撃に対応できます。同軸機関銃や対空機関銃も装備されています。現在はコンタークト1(ERA)に対抗兵器ができ、旧式電子機器の交換などで重量が増え機動力が制約されました。

作品3

 作品③は、第2次世界大戦中、イギリス軍の“パラシュート連隊(Parachute Regiment)”として知られた降下兵部隊の兵士たちが、地図を頼りに部隊の集合地点や攻撃地点を探る様子をイメージして描きました。この連隊は1942年に設立され、ノルマンディー上陸作戦やアーネムの戦いなど、多くの重要な作戦に参加。降下兵は、敵の背後に降下して重要な目標を確保するために訓練を積み、高い身体能力と戦闘技術を誇っていました。

  しかし、いくつかの弱点もありました。パラシュート降下中は敵の攻撃を受けるリスクがあり、降下地点が敵の支配下にある場合は孤立しやすく補給が困難になります。映画『遠すぎた橋』のモデルになったアーネムの戦い(マーケットガーデン作戦)では、それらの弱点がほとんど重なって作戦失敗に追い込まれました。

 作品の「BSAエアボーン自転車」は折りたたみ式で、パラシュート降下時に持ち運びやすいように設計され使用されました。

おおにしまさみ/1945年、神奈川県出身。1965年、画家・小松崎茂氏に師事。その後、タミヤ模型に入社。数々のプラモデルのボックスアートなどを手がける。1978年からフリーのイラストレーターとして活躍中。AAF作品展(12月4〜8日)に参加。AAF(オートモビル・アート連盟)会員。埼玉県在住

インタビュー/山内トモコ

やまうちともこ/TOKYO-FMパーソナリティを20年以上つとめ、インタビューした人1000名以上。映画評論家・品田雄吉門下生。ライター&エディター

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