初代BMW・M3は、グループA規格で争われていた当時のツーリングカーレース制覇のために開発されたスペシャルモデルである。1986年に本国デビュー、翌1987年から日本への輸入が開始された。ベースモデルは2ndジェネレーションの3シリーズ(E30型)。外観は、太いホイールとタイヤを履くことを想定して、フェンダーをブリスター状にワイド化。さらに空力性能向上のために、前後にスポイラーを備えたほか、リアウィンドウの角度を寝かせ、トランクリッドを1段高くした。この結果、Cd値は0.38から0.32にリファインされている。
エンジンはMシリーズのルーツ、スーパースポーツカー、M1のために開発された3.5ℓ直列6気筒DOHC24Vを、ちょうど3分の2に分割したような4気筒DOHC16V。ボア×ストローク値もM1用と同じ。排気量は2.3ℓで、最高出力は195㎰(触媒未装備は200㎰)をマークする。トランスミッションは専用のクロースレシオを持つゲトラグ製5速MT、1速が左側手前にくる通称レーシングパターンになる。
M3はグループA規定の「連続した12カ月で5000台の生産」を終えた1987年、レースに参戦。DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)では連戦連勝で、ほどなく2.5ℓ以下のクラスは、M3のワンメイク状態になる。
M3は市場での人気が高かったため、BMWは1988年以降もM3の生産続行を決めた。なお1988年以降のM3は、5速MTが他の3シリーズと同じZF製となり、シフトパターンは通常のタイプになった。
その後、M3はレースでの戦闘力を引き上げるため、1990年に2.5ℓ/238㎰のM3スポーツエボリューションを500台限定で生産している。
取材車は、1987年に輸入されたディーラー車。ゲトラグ製5速MTを備えた希少モデルである。スライディングルーフ、リアサンシェード、前席シートヒーターのオプションが装備されていた。ラックスシルバーのボディは良好。気になるキズやへこみはなく、塗装の艶も十分。歴代オーナーは屋内ガレージで保管していたという。タイヤはトーヨーを装着、純正のBBS製アルミにキズはない。
内装はクリーンな印象を受けた。インパネやファブリック地のシートに日焼けによる退色はなく、すべてのスイッチは正常に機能。エアコンも利く。ステアリングとシフトノブ、パーキングブレーキレバーはアルカンターラ仕上げのスポーツエボリューション用に交換済みである。
間もなく走行10万㎞を迎えるクルマだが、エンジンをはじめとするメカニズムはしっかりしている。前オーナーは定期的にBMW専門ショップでメンテナンスを受けており、整備履歴はきちんと残っている。足回りはブッシュ類の交換を含めOH済み。エンジンは4連スロットルを調整したばかり。
195㎰を発揮する2.3ℓユニットの吹き上がりは良好。3000rpmを超えると明らかにパワーが盛り上がるのが気持ちいい。しっかりとしたシフトタッチの5速MTを駆使して、高回転をキープすると豪快な走りが堪能できた。
1st・M3は、5ナンバーサイズに収まるコンパクトなボディと相まって、人車一体感が存分に味わえるネオクラシックスポーツである。実用性も高い。
モデル=1987年式/BMW M3
新車時価格=5MT 748万円
全長×全幅×全高=4360×1675×1365mm
ホイールベース=2562mm
車重=1285kg
エンジン=2302cc直4DOHC16V
最高出力=195ps/6750rpm
最大トルク=23.5kgm/4750rpm
サスペンション=前ストラット/後セミトレーリングアーム
ブレーキ=前後ディスク
タイヤ&ホイール=205/55ZR15+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=4名