1969年式 日産フェアレディZ432 初代フェアレディZはスポーツカーを「スパルタンなオープン」から「快適なGTクーペ」に変えたエポックモデル。432はモータースポーツ参戦を意識した日本市場専用モデル。ハコスカGT-Rと同じS20型2ℓ直6DOHC24V(160ps/18.0kgm)を搭載し210km/hのトップスピードを誇った
初代フェアレディZは、スポーツカーの主流を“スパルタンな乗り物”から、“スタイリッシュで快適なGT”に変えたエポックモデルである。1969年10月に登場し、日本仕様は2ℓ、輸出仕様は2.4ℓの直6ユニットを搭載。海外、とくにアメリカで人気が爆発し、1978年のモデルチェンジまで累計55万台を販売した。
Zの魅力は、スタイリングと優れたパフォーマンス、そしてリーズナブルな価格にあった。フォルムはダイナミックな雰囲気にあふれ、性能はクラス最高水準。価格は日本仕様が93万円から、輸出仕様の240Z(北米モデル)は3526㌦(当時1㌦=360円)。同クラスのポルシェ911と比較して3分の1以下だった。Zの誕生以降、英国製を中心としたオープン2シーターは人気が失速、スポーツカーはクローズドルーフのGTモデルが主流になる。
世界的に人気の初代フェアレディZには、日本専売の“432”というスペシャルモデルが存在した。モータースポーツ参戦を目標に、当時のスカイラインGT–Rと共通のS20型エンジンを搭載したハイパフォーマンス仕様である。パワーユニットは1気筒当たり4バルブの2ℓ直6DOHC24V。ソレックス製キャブレターを3連装し、160㎰/7000rpm、18.0㎏m/5600rpmを発生した。5速トランスミッションを介して最高速度210㎞/h、0→400m加速15.8秒をマーク。この数値はトヨタ2000GT(それぞれ220㎞/h、15.9秒)と並び、国産最速だった。価格は185万円。初代フェアレディZの魅力は、手ごろな価格にあったが、432は別格だった(なお、トヨタ2000GTは238万円)。432のネーミングは、S20型エンジンの“4バルブ、3キャブレター、ツイン(2)カム”に由来している。
432は充実装備の標準仕様と、レース用ベースマシンの432Rを設定。標準仕様は、軽量マグネシウムホイール、8トラック式カーステレオなどが標準の上級モデル。一方、432Rは、ブラック仕上げのFRP製ボンネットや、アクリル製サイド&リアウィンドウで軽量化を図り、センターコンソールとヒーターが未装備のスパルタンモデル。ごく少数がモータースポーツ関係者に販売された。
レースデビューは、1970年1月の鈴鹿300㎞。初戦はスピード性能を発揮したものの惜しくもリタイヤ。念願の初優勝は同年4月のレース・ド・ニッポン6時間だった。
1973年まで販売された432の生産台数はわずか420台ほど。その優れたパフォーマンスと希少性で、現在でも抜群の人気を誇る。
取材車は、1969年生産の標準仕様。ボンネットをブラックで仕上げ、サイドにストライプが入ったフルレストア車両だ。ボディコンディションは良好。サビと傷を補修し、新車時と同色でオールペイント済み。塗装は輝き、ウィンドウ回りのゴム類は新品。ホイールは8本スポークの社外アルミ。タイヤは195/70R14サイズだった。
室内はオリジナル状態をキープ。希少なウッド製ステアリングとシフトノブが装着され、シートは張り替え済み。インパネに割れはなく、各種スイッチは正常に作動した。
S20型ユニットは絶好調。エンジンの吹き上がりは鋭く、パワフル。刺激たっぷりの加速を披露した。3000rpmを超えると本領を発揮し、回転の上昇が一段とシャープになる。パフォーマンスは現在の水準で見ても素晴らしい。エグゾーストシステムをステンレス製に変更している関係もあり、レーシーなサウンドを奏でた。
Z432は、ダイナミックな走行感覚を持った生粋のリアルスポーツだった。日本が世界に誇る名車の1台である。