20XX年のモビリティを予測展示
トヨタの豊田章男社長は、有言実行のリーダーだ。今年の東京モーターショーのトヨタ・ブースを見れば、よくわかる。
豊田社長は9月末の記者会見で「クルマを展示しておけば、大勢のお客様が見に来てくださる時代ではなくなった」と語っていた。クルマという既存の枠組みを超えた展示方法が、現在のモーターショーには求められている、という趣旨の発言をしていた。その言葉どおり、トヨタ・ブースには「市販車、あるいは市販予定車」は1台も展示されていない。
トヨタが「モビリティのテーマパーク」と表現するブースには、近未来をテーマにすえたコンセプトモデルが並んでいる。展示車両は以下のとおり。
TOYOTA e-Racer(e-レーサー)
2シーター(タンデムスタイル)の電動レーサー。このモデルは専用のデジタルグラスを利用して、好みの走行シーンを現実世界に重ね合わせたり、ユーザー自身の体型に合わせたレーシングスーツが作れたりする。今回のトヨタ・ブースの出品車の中で、唯一「パーソナルユーザー」を想定したコンセプトモデルで、豊田社長が語る「クルマは愛がつく乗り物」という「愛車」の考え方をコンセプトの根底に持っている。4輪それぞれにインホイールモーターを装備(スペックは未公表)。全長×全幅×全高3340×1610×970mm。
▲e-Racer タンデムスタイルの2名乗り電気自動車 4輪それぞれにインホイールモーターを装備 「愛車」というキーワードが開発コンセプトの根底にある
TOYOTA Micro Palette(トヨタ・マイクロ・パレット)
大切な荷物を運ぶ、小型の配達ロボット。トヨタ・e-トランスに積載して、物流のラストワンマイルを担当する役割を果たす。自動運転のほか、ボイスコマンドでも操作できる。6輪駆動(ショーモデルは4輪駆動)。メカナムホイール(車輪の表面にバレル(樽状のパーツ)を付け、真横に移動できる特殊なホイール。写真参照)を採用しているので、車体の方向は変えずに前後はもちろん左右に移動できる。運搬できる荷物のサイズはSサイズが325×475×135mm、最大のXLサイズは1230×480×600mm。開発担当者によれば、「このサイズで、宅配で扱われる荷物の70〜80%は対応できる」という。
▲Micro Pallete マイクロパレットは物流のラストワンマイルを担当する小型モビリティ 写真下がメカナムホイール 車輪の表面にバレルがある バレルは車軸に対して45度の角度で装備 このホイールが前後・左右・旋回を可能にする
TOYOTA e-Trans(トヨタ・e-トランス)
「クルマを個人で所有する台数が減り、ライドシェアなどが増える時代に対応」するためのモデル。乗員を運ぶだけではなく、荷物も運搬できるように設定されている。車両の後方からスロープが出て、ここからマイクロ・パレットが乗降できる。
▲e-Trans e-トランスは乗員と荷物の運搬に利用する自動運転モデル マイクロパレットと組み合わせて利用できる
TOYOTA e-4me(トヨタ・e-フォー・ミー)
個人の「移動」という行為に、新しい価値を持たせるためのモビリティ。たとえば、音楽スタジオの機能をe-4meに加えると、移動時間が「音楽を楽しむ時間」に変わる。ハンバーガーショップが「朝の限定メニューと移動」をセットで提供する使い方も考えられる。時間と空間を「移動」だけのために使うのではなく、付加価値を高めるサービスを実現する乗り物。車名の4は、車体サイズ(4立方メートル)に由来している。
▲e-4me 企業が個人を対象にした「移動の付加価値サービス」を展開する場合を想定して開発された自動運転車 車名は「4立方平方メールを自分のために使う」という意味 1名乗車
e-Palette(e-パレット)
2020年の東京オリンピック・パラリンピックで選手の移動のために使われるモビリティ。自動運転車で、乗員は最大20名乗れる。全長×全幅×全高5255×2065×2760mm。
▲e-Palette オリンピック・パラリンピック東京2020で利用されるトランスポーター 自動運転車で最大20名が乗車できる このクルマのサインボードに表示されていたメッセージがトヨタ・ブースの展示内容を表している
e-broom(e-ブルーム)
「ハリー・ポッター」たちがクィディッチ競技で使う「ニンバス2000」のような形状のモビリティ。空を飛ぶことはできないが、魔女がホウキにまがるようにして乗り、ローラースケートに履き替えるとスピーディな移動ができる。トヨタ社内の有志によるアイデアをかたちにした乗り物。
▲e-broom ブルームは「ホウキ」の意味 ローラースケートを履いてまたがって乗る 慣れるとかなりの高速走行が可能
TOYOTA e-Chargeair(e-チャージエアー)
電動車両が普及した未来の社会において、簡単に充電を行うための「給電車」の提案。全長×全幅×全高2340×660×1080mmとコンパクトなボディで、充電を必要とするクルマがあれば、自律走行で給電のために駆けつける。空気清浄、Wi-Fiなどの機能を備えている。
▲e-Chargeair チャージエアーは給電機能を持ったクルマ 充電が必要なクルマのもとに自走で行き電気を供給する 空気性能やWi-Fiの機能も持っている
TOYOTA e-Care(e-ケア)
車内で医師と会話ができ、診察を受けながら医療機関に向かう機能を持った自動運転車。展示車は「顔じゃんけん」のエンターテインメントが体験できるようになっている。
▲e-Care 医師が不足する地域の医療充実に役立つクルマ 自車内で遠隔地にいる医師の診察が受けられる スロープが設定されたユニバーサルデザイン
キッザニアで仕事をして、トヨタコンビニでノベルティをゲット
トヨタ・ブースに展示されたこれらのクルマは、すべて電動車両。電動、自動運転、AI、仮想現実、コネクテッドなど「20XX年には、社会でこうしたモビリティが使われているだろう」という近未来を先読みした展示内容だ。豊田社長は「未来をクルマ単体で伝えるのは難しい」とコメントし、「共有したくなる、行きたくなる展示。未来の主役になる子供たちに来てもらい、体験してもらうことが大切」と語っていたが、その発言に沿う表現方法でトヨタは未来予測図を示している。
なお、トヨタ・ブースは「レジデンスカード」というエンターテインメントを設定して、来場者が展示確認や体験を通じてポイントを獲得すると、ブース内の「トヨタコンビニ」にラインアップしている賞品がもらえる。ミネラルウオーターは1点、スマホケースは2点など、ポイントを集める楽しみがノベルティ獲得に直結している。レジデンスカードを作成するだけで1ポイントがゲットできる。レジデンスカードの作成にはロボットが使われるなど、トヨタの技術分野が幅広いことが伝わってくる。
▲キッザニアのトヨタ・ブースで月面探査車を走らせるためのプログラミングに取り組んだキッズはスペシャルチケットがもらえる このチケットをトヨタコンビニに持っていくと仕事の「対価」(この場合はご褒美)としてオリジナルキーホルダーが渡される
キッザニアのトヨタ・ブースで「仕事」をしたキッズは、スペシャルチケットがもらえる。このチケットを持ってトヨタコンビニに行くと、ロボットが子供たちを出迎え、仕事に「対価」(ご褒美)としてキーホルダーのプレゼントがある。未来の社会を、子供たちに体験してもらう絶好のチャンスだ。
トヨタ・ブースがキッズのために用意した「仕事」はプログラミング。トヨタはJAXAの月面ローバを開発する計画を発表しているが、子供たちは、月面ローバを移動させるプログラミングを行う。といっても専門言語を使うわけではなく、用意されたシートに描かれているマス目に進行方向を描いたタイルをはめ込んで、月面ローバをゴールに導くという内容。ぜひ、チャレンジして「スタート・ユア・インポッシブル」(不可能に挑戦しよう)のキーワードが入ったキーホルダーをゲットしよう。
▲トヨタ・ブースは「未来人」とヒューマノイド型ロボットがお出迎え