スバルという自動車メーカーに、みなさんはどのようなイメージを抱いているだろうか。筆者は“安全”だ。以前はシンメトリカル(左右対称)AWDというスバル独自のレイアウトがもたらす安定感のある走りがその根底にあったが、最近ではアイサイトによる事故低減が、安全というイメージに直結していると思う。
そんなスバルの事故低減に向けた取り組みをメディアに公開するイベント「スバルテックツアー」を取材する機会があった。イベントの冒頭、スバルの開発者はクルマ作りにおいて“走りを極めれば安全になる”という考え方を持っているということを知らされる。走りは安全を高めるための重要な要素で、天候や路面状況が悪いときなどのあらゆる環境下で、普段と同じように安心して運転できるクルマを作ることが大切だという。そのために最近スバルでは、新しい計測技術、分析技術、解析技術を開発して、動的質感の向上を目指している。さらに医学的なアプローチで人が感じる乗り心地のメカニズムを解明し、動的質感の進化をもらたしたというのだ。
これはいったいどういうことなのか。今回は電気自動車のソルテラと、Cセグメントクロスオーバーのクロストレックをスバルのテストコースにある特殊な環境で運転することで、スバルの安全に対する考え方について検証することができた。
まずはソルテラで傾斜30%の砂利を上ってみるが、ドライバーが意識しなくても適切な駆動力制御を行っており、急な坂道にもかかわらずスムーズに上ることができた。しかし、それだけではつまらないので、2回目は左右輪で滑りやすさが異なる凹凸の路面で停車し、発進できるかも試してみた。試乗車は4WDモデルで、前後に独立したモーターを備えているが、モーターならではの素早く正確な出力特性によって駆動力を緻密に制御し、4輪のグリップを無駄なく均等に使って車両姿勢をコントロールしており、苦もなく発進することができた。また、常に一定の車速を維持するグリップコントロール機能によって、ステアリング操作に集中して安心して上ることができた。
次に傾斜43%という急な降坂路を下ってみる。ここではヒルディセントコントロール機能により、決まった速度(今回は6km/hに設定)で安定して坂道を下りていけた。また、1輪が浮いてしまうようなモーグル路を模した環境でも、X-MODE(エックスモード)により、4輪の駆動力やブレーキなどを適切にコントロールしてくれることで、脱出はスムーズだった。こういった条件を問わない走破性の高さこそが、事故の低減につながっているのだと実感する。
次に新型クロストレックと旧型XVで、動的質感がどう進化したか商品評価路で比較試乗した。XVが凹凸路で足元が“ドドン”という感じでばたつくのに対して、クロストレックは“タタン”という感じでスムーズに駆け抜けていく。後席にも座って見たが、クロストレックはリアタイヤへの入力がマイルドで、快適な乗り心地になっていると感じた。また、旋回速度を上げていったときは、XVよりクロストレックの方が舵角が小さくて済み、そのことが走りの安心感につながっていると感じた。
これらは疲労と頭部の揺れの関係を医学的に解明し、シートの取り付け剛性の改善やシートの腰の部分の改良で身体の保持を改善を行い、頭部の揺れを抑制したことが快適に感じることにつながっているという。こういったひとつひとつ動きを取っても、疲労を蓄積させないことにつながり、ひいては安全にもつながっていくのだろう。
最後に、スバルには「スバルドライビングアカデミー」という取り組みがあることが紹介された。これは「スバルにはテストドライバーという職種はない」「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」という考え方のもと、運転スキルと評価能力を高める目的で2015年9月に創設された。社内での運転技術の向上を目指したトレーニングはもちろん、最近ではスーパー耐久レースへの参戦も行なっている。こうした活動によってクルマ1台を見られる技術者が成長することで、より高いレベルでの車両の開発が行えているという。
スバルの“走りを極めれば安全になる”という真意がよくわかるイベント取材だった。