2024年4月7日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で決勝レースが開催されるF1日本グランプリ直前、アルピーヌによる前哨戦イベントが開催された。会場となったのは都内かつ駅直結のカートコース施設『シティ・サーキット・東京ベイ』。なんと、ここでアルピーヌF1チームのドライバーであるエステバン・オコンがA110 でデモランをするというのだ。
ちなみに「シティ・サーキット・東京ベイ」は、クルマのテーマパークであった旧「MEGA WEB」跡地に2023年秋にオープンした東京23区唯一となる本格的なモータースポーツ専用施設だ。ここででは専用開発されたEVカートとともに、最新鋭のシミュレーターによる本格的なモータースポーツ体験が楽しめる。ゆりかもめ「青海」駅に直通であるし、りんかい線「東京テレポート」駅からも、わずか2分というアクセスの良さも魅力だ。
そんな都内唯一のカート・サーキットにおいておこなわれた今回のイベント。日中はメディア対抗のEVカートのタイムアタック大会が実施された。このカートコースは、アクセル全開で攻める最終コーナーからテクニカルなヘアピン、さらには小さいながらもアップ&ダウンもある、攻略しがいのあるもの。また、EVカートは振動がなく、静かでありながら、パワフルかつトルクフルで、扱いやすい。攻めて、走って、非常に楽しめるタイムアタック体験となったのだ。
タイムアタックで熱くなった頭と身体を冷やしつつ、日没後にはアルピーヌF1チームのドライバーであるエステバン・オコン選手とリザーブドライバーのジャック・ドゥーハン選手の到着を待っていると、ここでサプライズが発生!イベント出演予定にないミック・ドゥーハン氏が登場したのだ。その名の通り、ジャック・ドゥーハン選手の父上であるのだが、なにより彼こそ1990年代にロードレース世界選手権500㏄クラスで5連覇を達成したオートバイ・レースのレジェンドである。当時の活躍を知る、年配メディア関係者(筆者を含む)の顔色が変わる!すっかり白髪頭になっていたが、精悍な顔つきは当時のまま。
3月に開催されたF1オーストラリア・グランプリにおいては、2輪に乗るミックと、4輪に乗るジャックによる親子共演のデモランも行われているのだ。この日は、「ここでイベントがあると聞いて、ちょっと見に来た」というのがミック・ドゥーハン氏の説明だったのだが、急遽行われたトークショーでは、かつて参加した「鈴鹿8耐」などの思い出が語られたのだった。
その後、しばらくするとアルピーヌA110に乗った若者2人が会場入り。アルピーヌF1チームの正ドライバーであるエステバン・オコン選手と、ジャック・ドゥーハン選手だ。到着してすぐにジャック・ドゥーハン選手は、EVカートに乗り込み、コースを走り出す。初めてのコースとはいえ、さすがのスムーズな走りで、ほんのわずかな周回で32.710の好タイムを記録したのであった。
あいさつ代わりのEVカート走行披露の後は、エステバン・オコン選手とジャック・ドゥーハン選手によるトークショー。トークショーにおいて両選手は日本に関する思いを披露する。
「ゴーカートのサーキット以外でサーキットを初めて知ったのは、筑波サーキットでした。5歳のときにグランツーリスモ3のゲームで、友達と本当に楽しい時間を過ごしました。残念ながら、本物の筑波に足を運んだことはありませんが、いつか、筑波でドリフトするという夢をかなえたいなと思っています」とオコン選手。
ジャック・ドゥーハン選手は、欲しいクルマがR34GT-Rだというけれど何がよいの?という質問に「何が好きって全部で(笑)。子供のころ、日本で『ワイルドスピード』と言う映画を見て、大好きになりました。ずっと憧れてきました。R34型GT-Rには、いろんなバージョンがありますが、それは全部好きです」と答えている。
そして、日本でのF1開催が秋から春に変わった影響は? という質問には「去年はすごく暑くて、レースを通じてタイヤを温存するのに苦労しました。今年は、もっと涼しくなりますし、週末には雨が降るかもしれないと言われています。ただ、2022年にウェットのときに優勝していますし、クルマもさらに競争力をつけていると思いますので、頑張りたいと思います」とオコン選手は抱負を述べていた。
そんなトークショーの後に行われたのは、この日のメインイベントとなるアルピーヌの新型モデルとなる「A110Rチュリニ」(1550万円~)のデモランで、なんとここシティサーキット東京ベイのEVカート用コースを走るというとんでもない企画。本人たっての希望もあっての実現だったそうだ。
アルピーヌA110Rチュリニは、カーボンのボンネットやリアフードに、フロントスプリッター、サイドスカート、リアスポイラー、ディフューザーといった空力パーツを採用。高性能アジャスタブルレーシングダンパーにより車高も10㎜下げられている。直列4気筒1.8リッターターボ・エンジンの生み出すのは最高出力182kW(252PS)・最大トルク320Nm。それに対して車両重量は、わずか1100㎏しかない。標準の「A110」をさらに磨き上げた特別なモデルだ。
とはいえ、狭いカートコースであれば、ぶつからずに走るだけでもひと苦労。最初は、文字通りデモランとしてゆっくりと走るのかと思った。ところが、ハンドルを握ったE・オコン選手は、いきなりのフル加速を見せる。Rのきついコーナーは上手にアンダーを殺しながら、大きなRのコーナーでは豪快に加速する。素晴らしいのは、まったくもって危なげがないということだ。タイムはみるみるあがってゆき、すぐにジャック・ドゥーハン選手の出したEVカートのタイムを更新。最終的には30.768という記録を残した。プロのカート選手によるコースレコードにコンマ3秒に迫る好記録であった。
かくしてF1ドライバーの貫禄の走りを目の当たりにして感激する夜となった。鈴鹿でオコン選手がどのような走りを見せてくれるのかが楽しみだ。